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2025年度 二松学舎大学・大学院学位記授与式 告辞

2026年3月17日 二松学舎大学学長 佐藤 晋

 学部を卒業される皆さん、そして大学院を修了される皆さん、二松学舎大学教職員を代表して、心からお祝いを申し上げます。また、学生の皆さんがここまで学びを続けることにご理解とご支援を捧げられたご家族やご関係の皆様にも、心からお祝い申し上げます。

本学は、1877年に漢学者三島中洲によって創立されました。これまで「社会における有用な人材を育成する」ことを教育目標に掲げ、今日までの148年の歴史の中で多くの有為な人材を育成してきました。本学の「育成力」は社会的にも一定の評価を得ており、数多の卒業生が社会の各方面で活躍されています。

そこで、皆さんが社会に出られるにあたって、私から社会的生活を送るうえでの助言をお伝えしたいと思います。
まず、社会に出て努力することの必要性はいうまでもないことですが、その努力の方向を間違わないことが重要です。特に、自分の力で変えられることと変えられないことを十分理解し、変えられることには尽力し、変えられないことは不快かもしれませんが、そのままにしておくことが大切です。

しかし、何が変えられることで、何が変えられないかを理解することは非常に難しい問題です。特に、自分の中の不安や恐怖といった感情が自分の力で抑えられるのかどうかというテーマは、古今東西の哲学者・宗教家・医学者が深く悩んできた問題です。ところが現在では、脳科学の発展にともなってほぼ答えが出ており、不安や恐怖といった感情を司る部位は脳の中でも古くから発達した部分であり、この働きはその後発達してきた知能の力では抑えられないという結論になっています。

では、不安は永遠になくならないのかといえば、そうではありません。皆さんも経験しているように、一定の時間が経てばあらゆる感情は減衰していきます。特に、感情の強さが一定の閾値を超えると、脳内から安心をもたらすホルモンが分泌されるなどして、不安感情は一気に霧散する仕組みになっています。とりわけ、自分でなんとか気を紛らわそうといった無駄な努力をせず、感情を放置すればするほど、この仕組みはうまく作用することがわかっています。

これを仏教では親鸞が「はからうな」「はからいをやめよ」「自力を捨てて他力に任せきれ」という、いわゆる他力本願として教義を組み立てました。同じことを禅の方でも、鈴木大拙が「絶対の受動性」という言葉を用いて説明しています。また精神医学では、大正期に森田正馬がこのメカニズムを解明して森田療法を確立しました。以上のように、脳科学などなかった時代に、脳の内部構造もわからないままで、自己を観察し、実験し、心身の機能を体感することで、現在の科学的知見と同等のものに昔の偉人は到達していました。したがって、過去の偉大な人物の著作は今なお読む価値がありますが、世の中では誤った知識がまかり通っているのが現状です。皆さんには、最新医学の本でも偉大な古典でもよいので、よく勉強され、このあたりの心理的な事情を早いうちにつかんでいただきたいと思います。

次に、不快な感情は放置しておくとして、そのうえで何をするのかというと、自分の人生・生活・仕事においてプラスとなる行動に集中するということになります。例えば、仕事の締め切りが迫って焦燥感が強いのであれば、その焦燥感をなくそうとか誤魔化そうとするのではなく、その仕事に全力を集中して早く片付けるようにするわけです。そうして仕事が終われば、結果的に焦燥感も解消します。ただし、焦燥感をなくすために気を紛らわすように仕事をしても意味がありません。ちゃんと目的が達成する方向に努力してください。

また、最近はSNS全盛時代で、皆さんは他人にどう思われているか、自分の評判はどうか、誰かが自分の悪口を言っているのではないかと、過度に気にしているところはないでしょうか。そのほとんどは全く気にしなくてよいものですが、相手が上司や同僚、身近な人になると、そうも、言っていられないでしょう。ただし、その時も周りがどう考えているのか詮索してあたふたするのではなく、自分の感情が変えられないのと同じように、他人の感情も変えることは無理だという程度に考えてください。そのうえで、自分の評判にとってプラスになる行動、例えば仕事を一生懸命頑張る、周りに親切にする、礼儀正しく挨拶するといった行動を積み重ねて、結果的に相手の感情が変わっていくことを期待する以外にありません。

その際、いくつかの行動の候補が出てきますが、なるべく価値判断を加えるのではなく、最初に「これはやるべきだ」と感じた感覚を大切にしてください。私は政治学を教えていて、自由と平等の価値のどちらが大事なのか、社会保障の水準を決める時にどの価値を優先するのかといったことを話すこともありますので、矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、学問を離れて社会生活を送る場合には、なるべく無駄な考えを省くようにしています。というのも、人は不安定な精神状態において行う価値判断は、やるべきことを決めるためではなく、やりたくないことやできそうもないことを行わずに済むように、行わないことを正当化するために用いることが多いからです。つまり、やりたくないことの価値をわざと低くすることで、やらなかったことへの罪悪感を減らそうとするわけです。しかし、そうした手法を使ってしまうと、本当にやるべきことをやらないか、後回しにしてしまう結果になります。

例えば、英語の勉強はしないといけないと思うけれど、面倒だし大変だから、「どうせAIが発展したら通訳も全部自動になるのだから英語の勉強は今後意味がなくなる」といった正当化のための価値づけして、結局何の勉強もしないというような負の結果を導いてしまうことです。皆さんには、やりたくないことでも手をつけ、できないかもしれないと思うことにもどんどんチャレンジしていってほしいと思います。

最後に、皆さんが入学された2022年4月は、直前にロシアのウクライナ侵攻があり、7月には当時の安倍首相が狙撃されるという大きな事件がありました。また、コロナも弱毒化した一方で感染者数は激増し、3回目・4回目のワクチンが話題になり、マスクの着用が一般化していた頃でした。あれからもう4年が経ちました。時間の流れは速いものです。皆さんはまだ若いとはいえ、時代の流れがどんどん早くなっています。「これはやらないといけない」「これはやるべきだ」と感じたその初一念に素直に従って、あらゆることにチャレンジしていってほしいと思います。皆さんは、この大学での4年間でさまざまな課題に挑戦して乗り越えてこられたわけですから、これからもその気持ちを大切にしてプラスの行動を積み重ねていってください。

二松学舎大学は来年、2027年の10月10日に創立150周年を迎えます。本学には、今卒業される皆さんを含め、これまで4万人近い卒業生がいます。日本のどこか、世界のどこかで二松学舎大学の卒業生と出会うこともあるでしょう。この学び舎で育った皆さんは、今後いかなる困難があったとしても、必ずや二松学舎大学の仲間とともに努力して乗り越え、より良い未来を切り開いていくと確信しています。

皆さんの努力と研鑽に対する心からの賞賛をもって、私からの告辞といたします。ご卒業おめでとうございました。

佐藤学長
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