理事長トピックス
水戸英則理事長 2026年度入学式祝辞
二松学舎大学・大学院 入学式 祝辞
2026年4月3日
不易流行の精神で未来を拓く
新入生の皆さん、ご入学誠におめでとうございます。また、今日という晴れの日を心待ちにしてこられたご家族の皆様ならびに関係者の皆様にも心よりお慶び申し上げます。
さて、二松学舎は明治一〇年(一八七七年)、文明開化の只中に創立されました。当時、日本に押し寄せた西洋化という大きな変革の波は、現代におけるAI時代の到来という潮流と重なり合います。その激動の中で、創立者・三島中洲先生があえて訴えたのは「東洋の精神文化の重要性」でした。流行にただ流されるのではなく「物事の真の価値を自分の頭で考え抜く」こと。これこそが、今で言う「クリティカル・シンキング(批判的思考)」であり、時代を超えて受け継がれてきた本学の学問的DNA、すなわち建学の精神の核であります。
では、この精神を基盤として、皆さんが本学でこれから学ぶ「人文社会科学の知見」とは、いかなるものでしょうか。
それは、歴史や文学、哲学を通じて人間とは何かという普遍的な問いを探究し、政治や経済の仕組みを通じて社会はどうあるべきかを解き明かそうとする営みです。人類が長い時間をかけて積み上げてきたこの叡智の総体こそが、人間理解と社会形成の礎であり、いつの時代も変わらない、つまり不易な価値を発揮する知の基盤なのです。
しかし、単に知識を蓄えるだけでは激動の時代を切り拓く力にはなりません。こうした普遍的な知見をAI社会においても通用する強力な実装ツールへと進化させるために、私は皆さんに次の「三つの観点」を持って学ぶことを勧めます。
第一の観点は、AIには持てない倫理的な羅針盤を持つことです。
確かに、AIは膨大なデータを分析し、最も効率的な答えを私たちに教えてくれます。しかし、AIには心がありません。何が善で何が悪か、どうすれば人は幸せになれるのか。それを判断することはできないのです。だからこそ、歴史や古典に触れ、先人たちがどう生きたかを学んでください。そうして培われる教養こそがAIの出す答えに対して「それは本当に、私たち人間を幸せにするのか?」と問いかけるための決して揺らぐことのない心の羅針盤となるのです。
第二の観点は、思考のOSとなる言葉の力を鍛えることです。
あふれる情報を批判的に読み解き、論理的に考え、他者に伝えるカ、すなわち「国語力」は、いわばコンピュータにおけるOSです。どれほど高性能なAIアプリを使おうとも、それを使いこなす皆さんの頭脳というOSが脆弱であれば、真の価値は生まれません。徹底的に言葉と向き合い、自らの知的活動の基盤をアップデートしてください。
第三の観点は、社会的なモラルと経済的な合理性を統合する多角的な視野を持つことです。本学の第三代舎長を務めた渋沢栄一先生が『論語と算盤』で説かれたのは、まさにこのモラル(論語)と経済活動(算盤)の両立でした。これを現代において実践するには、文学や歴史を通して人間の内面を深く理解する感性と社会や経済の仕組みを理解する知性の両方が求められます。モラルとテクノロジーの進化のバランスを取りながらこの二つの視点を統合できる力こそこれからのリーダーに不可欠な資質なのです。
いかに高度なAIであっても、それは過去のデータを分析・整理した結果に過ぎません。しかし、私たちがこれから向かう未来にはまだデータが存在しません。正解のない未知の問題に直面したときゼロから新しい価値「1」を生み出せるのはAIではなく、痛みや喜びを知る人間だけです。そして、その創造力を枯渇させないための深い泉こそが、本学で学ぶ歴史や文学、哲学、社会科学といった人間や社会を知る学問なのです。歴史的な転換点にある今、伝統あるこの学び舎を選んだ皆さんの決断は間違いなく未来への最良のチケットです。今日から始まる学生生活が皆さんにとって発見と成長に満ちた実り多きものとなることを確信しています。
新入生の皆さんの輝ける未来と、本日ご列席のご家族の皆様のご健勝を祈念いたしまして私の祝辞といたします。


二松学舎大学附属高等学校 入学式 祝辞
2026年4月8日
伝統の「心」と最新の「知」で拓く人間らしい未来
新入生の皆さん、ご入学誠におめでとうございます。また、保護者の皆様ならびにご関係の皆様におかれましても心よりお祝い申し上げます。
本日、皆さんは創立一四九年の歴史を持つ二松学舎の一員となりました。本学は明治の時代からずっと「人間とは何か」という深い問いに向き合い続けてきました。そして、皆さんが高校生として歩み出す二〇二六年、この問いはこれまで以上に重要な意味を持っています。
今、世界は生成AIの登場により大きく変わろうとしています。AIは、人間には想像もできないほどの膨大なデータを読み込み、論理や創造性の分野においても人間を追い越す勢いで、効率的な正解を導き出します。
しかし、決して忘れてはならないことがあります。AIが出す答えは、あくまで過去のデータから計算されたもっともらしい予測に過ぎないということです。AIは効率的な方法は教えてくれても、人間としてどうあるべきかという目的地までは示してくれません。そこには未来を切り拓こうとする意志も、決断に対する責任も存在しないからです。
だからこそ、二松学舎大学附属高等学校でこれから学ぶことがこの時代を生き抜くための大切な「羅針盤」となります。その理由は二つあります。
一つ目は、学校生活を通して人間ならではの感性を磨くことです。
AI技術が進化する今だからこそ、計算では導き出せない共感する力や創造する力が問われます。本校には体育祭や文化祭、修学旅行のほか甲子園出場常連校である野球部をはじめとする熱意あふれる部活動があり充実した学校生活を送ることができます。こうした環境の中で、仲間と協力し時にはぶつかり合いながら目標に向かう経験は、AIには決して真似できない心の研磨となり皆さんを成長させます。創立者・三島中洲先生が説いた「東洋の精神による人格の陶冶(とうや)」すなわち人格を練り磨くという言葉の通り多様な経験の中で人間としての太い軸を育ててください。
二つ目は、本校独自の『論語』を通じた人間教育と、高度な情報教育の両立です。あふれる情報をどう扱うかという「知」とそれをどう使うべきかという「心」。この二つは車の両輪のようなものです。週一回の『論語』の授業で学ぶ「仁(思いやり)」や「義(正義)」は、物事の善悪を判断するための土台(OS)となります。一方で、一人一台の端末を活用した情報教育は、データを論理的に読み解くスキルを授けてくれます。
この倫理観と情報スキルが組み合わさって初めてAIの答えを鵜呑みにせず本当の正しさを見極める力が育まれます。伝統的な知恵と最新の技術、その両方を学ぶことこそが皆さんをAIに使われる側ではなくAIを自在に使いこなす主(あるじ)へと導くのです。
今日から始まる本校での三年間、伝統ある「東洋の精神」を身につけるとともにデジタル社会を生き抜くための「未来の技術」も貪欲に学んでください。AIが予測する未来をただなぞるのではなく、皆さんの意志と感性そして知恵を使って倫理観を基とした人間が人間らしく豊かに生きられるまだ見ぬ未来を自らの手で創り上げてください。
これからの三年間が皆さんにとってワクワクするような知的な喜びに満ちた生涯の宝となる時間であることを約束し、私の祝辞といたします。
二松学舎大学附属柏中学校・高等学校 入学式 祝辞
2026年4月7日
「自問自答」の精神と最新の知で創る未来への羅針盤
新入生の皆さん、ご入学誠におめでとうございます。また、保護者の皆様ならびにご関係の皆様におかれましても心よりお祝い申し上げます。
本日、皆さんは創立一四九年の歴史を持つ二松学舎の一員となりました。本学は創立以来「人間とは何か」という問いを探究し続けてきました。そして皆さんが中学生あるいは高校生として新たな一歩を踏み出す二〇二六年、この問いは現代社会においてとても大切なテーマとなっています。
世界は今、生成AI(人工知能)の急速な進化により大きな変化の真っただ中にあります。AIは膨大なデータを学習し、私たちが思いつかないような正解をあっという間に提示してくれます。
しかし、AIが導き出すのはあくまで過去のデータに基づいた計算の結果に過ぎません。「どうすれば効率的か」は教えてくれても「人間としてどこへ向かうべきか」という目的地までは示してくれません。そこには未来を切り拓こうとする意志も、自分の決断に対する責任も存在しないからです。
だからこそ、この二松学舎大学附属柏中学校・高等学校での学びがこの時代を生き抜くための「羅針盤(進むべき方向を示す指針)」となります。その理由は二つあります。
一つ目は、本校がもっとも大切にする「自問自答」の精神です。
AIが瞬時に答えを出してくれる時代だからこそ、安易にその答えを信じるのではなく「本当にそれで良いのか」「自分はどうありたいのか」と自らに問いかけ、深く考える力が重要になります。創立者・三島中洲先生の教えを受け継ぎ自然豊かなこのキャンパスで学習や部活動、学校行事に全力で打ち込んでください。その中で、仲間を思いやる心や何があっても揺るがない「自分自身の軸」を作ってほしいと願っています。
二つ目は、伝統ある「『論語』を軸とした人間教育」と最新の「情報教育」の融合です。
『論語』の学びを通じて、時代が変わっても大切にされてきた「仁(思いやり)」や「義(正しさ)」といった心を養うこと。これは、AIを正しい方向に使うための心のブレーキやアクセルとなります。そして同時に最新の情報教育を通じてテクノロジーの仕組みを深く理解することも欠かせません。
まさに「温故知新(古きをたずねて新しきを知る)」の実践であるこの両輪があって初めて、AIが出す情報をそのまま鵜呑みにせず事実かどうかを自分の頭で確かめる確かな思考力が身につくのです。古き良き知恵と新しい技術、その両方を学ぶことこそが皆さんをAIに操られるのではなくAIを自在に使いこなす主(あるじ)へと導きます。
今日から始まる本校での日々において、伝統ある精神を身につけるとともに未来の技術も貪欲に学び取ってください。AIが示す効率的な未来をただ歩むのではなく、皆さんの「自問自答」から生まれる強い意志と豊かな感性で人間が人間らしく幸せに生きられるまだ見ぬ未来を自らの手で創り出してください。
本校で過ごす時間が皆さんにとって知的な刺激に満ちた生涯の宝物となることを約束し、私の祝辞といたします。
