理事長トピックス
2025年度「『論語』の学校―RONGO ACADEMIA―」 水戸英則理事長挨拶
皆様、こんにちは。この度は、20回目の開催となる学校法人二松学舎主催「『論語』の学校―RONGO ACADEMIA―」に、かくも多数の方々にお集まりいただき、心より御礼申し上げます。本学は今年で創立148周年を迎えました。明治10年に、創設者である三島中洲先生が、本日の会場となっているこの「中洲記念講堂」の真上の地に、ご私邸を漢学塾二松学舎として創設したことが、本学のルーツです。今は塾跡に、本学の歴史を記した銘板と漢学塾の中庭の同じ場所に二本の松が植えられております。二本の松、「にしょう」の呼び名の所以です。お帰りの際、ご覧いただければと思います。このように本学が、これまで長きにわたり教育・研究機関として社会に貢献してこられたのも、皆様からのご評価、ご支援の賜物と深く感謝しております。引き続きご支援のほどお願いする次第です。
さて、ウクライナやガザをはじめ、古今東西世界の各地で争いが絶えない時代でもあります。こうした現実を前にしますと、「どうすれば争いを克服し、平和な社会秩序を築くことができるのか」という根源的な問いが、重くのしかかってまいります。
歴史を紐解きますと、この問いに対し、二つの対極的な考え方が示されております。それは、「外からの力」による統制か、それとも「内からの信頼」による調和か、ということです。前者の代表が、400年前の西洋の思想家トマス・ホッブズです。彼は、人間の本性を利己的とみなし、放置すれば「万人の万人に対する闘争」が始まると考えました。それゆえ、絶対的な権力者(リヴァイアサン)が「力」をもって厳しいルールを敷き、秩序を外側から強制する以外に道はない、と説きました。
一方、東洋における後者の代表が、孔子です。孔子は、人の心には他者を思いやる「仁」の心が本来備わっていると信じ、為政者がまず自ら「徳」をもって人々を導きさえすれば、互いの「信頼」関係が育まれ、秩序は内側から自然に生まれてくる、と説きました。
この「力」か「信頼」か、という対立は、そのまま現代の国際社会が直面する課題に直結します。軍事力や経済制裁といったホッブズ的な「力」のアプローチは、短期的には混乱を抑え込むかもしれませんが、憎しみの連鎖を断ち切る根本的な解決には至らないことも、歴史から学んでいます。もちろん、目の前の暴力を止めるための「力」が必要となる局面はありますが、その先の真の平和は、孔子が説いたように、人々の心の繋がり、すなわち「信頼」(外交、協力、国際法の遵守等)によって築かれるものではないでしょうか。ともすれば「力」による解決策に傾きがちな現代社会であるからこそ、私たちは今一度、「論語」に立ち返る必要があるのではないかと思われます。「力」に頼る前に、いかにして「信頼」を築き、これによる秩序を育むかが大切なのです。
本日は、株式会社ツムラ代表取締役社長CEOの加藤照和様をお迎えし、「天地自然の理法に順(したが)う“理念経営”~ ツムラアカデミーによる組織・人的資本形成」と題して、また昭和の政財界のご指南番と言われた安岡正篤氏のお孫さんである郷学研修所・安岡正篤記念館理事長の安岡定子先生からは「素読を通して『論語』を味わう」と題して、各々お話を頂きます。皆様には、ぜひ最後までご清聴いただき、「論語」から得られる現代社会と向き合うための学びを深めるとともに、先人の教えの素晴らしさを改めて感じていただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。 以上



安岡定子事務所代表 安岡定子氏
