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理事長トピックス

平成23年度 卒業式祝辞

平成23年度 二松学舎大学 学位記授与式 祝辞

 皆さん、ご卒業おめでとうございます。本日皆さんが手にされた学位記は、それぞれの学業を終えられた証であります。ここまでの皆さんの努力を称え、敬意を表したいと思います。また卒業される皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆様にも、卒業式へのご列席を感謝いたしますとともに、心からお喜び申し上げます。さらに卒業生たちをこれまで熱心に指導してこられた先生方、その勉学や生活を支援されてきた職員の方々にも、この機会を借りまして改めて御礼申し上げます。来賓も含め本日ご列席の皆さんが、本日の卒業式をお祝いするため集まっております。

 さて、みなさんご存知の通り、我々は今、かつてない大きな変化の時代の渦中にあります。わが国や米国等先進国は政府が膨大な財政赤字を抱え、増税問題、年金問題の解決策を探っております。ギリシャ、ポルトガルなどは国が破綻しかねない危機が続いている一方、中国を始めとする東アジア経済は大きく飛躍、世界の覇権を握る勢いです。またわが国は昨年大震災・大津波・福島原発事故による放射能拡散などで未曾有の被害を受け、被災地の本当の復興はこれからであり、この間少子高齢化も確実に進み、地球規模の温暖化や食料不足が進展するという様々な局面で大きな構造変化が起こっております。
 このような激動する時代の中に、これから卒業生の皆さんは巣立っていく訳ですが、その中で、今後常日頃心がけて行くことが望ましいということを一つだけ申し上げます。それは、簡単な言葉ですが、大切な言葉、「常に倫理観を持って行動し、生活していって欲しいということ」です。倫理とは「人と人との秩序関係、人間相互間の守るべき道、道徳であり、これを高めるモラル」ともいいます。これを守って生活をしていくことが望ましいと思うわけです。

 今から135年前、皆さんが学ばれた九段の一号館の地に二松学舎大学の前進である漢学塾二松学舎が、三島中洲先生によって創設されました。創設時中洲先生が唱えたのは、「東洋の精神による人格の陶冶〔育成〕」であり、「漢学を教授〔教える〕することによって、一世に有用なる人材を育成すること」にあると教えました。これが本学の建学の精神であり、教育の理念です。当時は西欧の文化や学術を取り入れるため西洋学が華やかなりし頃でしたが、中洲先生は漢学の大切さを訴えたのです。なぜ漢学かと言えば、漢学は孔子、老子など中国の儒教の先人たちが「人が踏み行うべき正しい道、すなわち道徳とこれを高める倫理観の涵養が人格形成に必要」と説いており、これを東洋の精神と考え、人材育成には、この精神を教えることが必要だと考えたからです。

 先ほど述べましたように大きな構造変化が進んでいる複雑な社会では、私たちが常日ごろ見ているもの、実感しているものが必ずしも全て正しいものではありません。新聞等で報道されているように、内部での不適切な扱いが露見して、企業の崩壊、国民が被害を受ける結果になった事例を見てきております。 また福島原発問題についても、その引き金は想定外の津波、天災とされていますが、調査の結果判明してきたことは、そもそも原発に対する過度の安全神話が作られ十分な諸リスク対策が講じられていなかったこと、問題発生後の対応についても数々の不手際から被害が拡大、人災の様相を呈していること、また原因究明不十分のまま、原発再稼動の意見が出ている事例など枚挙に暇がないわけです。どうしてこういう事が起きるかと言えば、各々の部署で、その仕事に当たっている関係者の間で利権が優先され、その反面道徳観や倫理観がかけていた面がなかったかと言うことであります。勿論国家も企業も利益を追求するわけですが、経済的な合理性のほかその根底に関係者の間に道徳観や倫理観があることが大事です。論語に『利を見て義を思う』という言葉があります。「利益を得るとき、人として踏み行うべき正しい道を外れていないか考える」という意味です。

 皆さんはこれからいろいろな進路に進まれていきます。会社生活、研究生活、自営業の手伝い等々での生活が待っているわけです。その中で難しい問題に直面することになるでしょう。疑問に思うこと、おかしいと思うこと、判断に迷うことなど多々あるでしょうが、どの世界でも、倫理は必要です。こうした中では、二松学舎の精神である「東洋の精神による人格の陶冶、常に道徳心を持ち、倫理観を涵養しながら生活する、すなわち人として踏み行うべき正しい道を外れてないか、考えて事に中る」という態度を忘れないで下さい。そして、皆さんの頭で考え、しっかりと仕事をし、研究を行う、人に頼らず、自らの能力を活かして収入を得て、独立した個人として家計を営む、その上で、そうした仕事やあるいは社会的な活動などを通じて、自分自身、自分の周り、もう少し大きな周り、惹いては日本や世界を明るく希望の持てるより良い社会にすることに貢献していく人材として活躍して欲しいと念願する次第です。
 そのような期待を込めて、改めて皆さんの卒業と、大きく開かれた前途を祝し、私の祝辞といたします。

平成23年度 二松学舎大学附属高等学校・附属柏高等学校 卒業式 祝辞

 皆さん、ご卒業おめでとうございます。本日皆さんが手にされた卒業証書は、所定の学業を終えられた証であります。ここまでの皆さんの努力を称え、敬意を表したいと思います。また卒業される皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆様にも、卒業式へのご列席を感謝いたしますとともに、心からお喜び申し上げます。さらに卒業生たちをこれまで熱心に指導してこられた先生方、その勉学や生活を支援されてきた職員の方々にも、この機会を借りまして改めて御礼申し上げます。

 さて、卒業される皆さん。皆さんはこれまでご両親に守られ、先生に守られ、学校と言う安全なところで、文字通り包まれてきたわけですが、しかし、これからは1人前の大人として責任と自覚をもって行動することが求められます。

 すでに皆様ご承知のとおり、昨年、わが国は大震災、大津波に加え原発事故というおぞましい災害に見舞われました。
 震災前の日本では、平和な生活が続き、一見、個人主義が横行し、日本人の精神的美徳などが忘れ去られていたように思えました。しかし、震災で日本人が見せた数々の行動が世界で賞賛されたことは記憶に新しいことです。例えば、昨年の3月26日のニューヨークタイムズは、「東日本大震災、福島原発事故後の日本では、アメリカや他の国のようにパニックにはならず、略奪や便乗値上げもなく、人々が秩序と礼節、自己犠牲と静かな勇敢さをもって行動した」と報道しました。またアメリカの有名な大学、ハーバード大学の人気教授の政治哲学者マイケル・サンデルは、「私たちはどう生きるべきか」という大震災特別講義を行い、この中であの冷静な行動は「日本人の国民性に折り込まれた特性」として絶賛しています。この「日本人の国民性に織り込まれた特性」とはなんでしょうか?皆が一丸となって現実に向き合い、取り乱すことも無く冷静に前進しようとしていた姿はなんでしょうか。これらは、日本人の根底にある、人に対する思いやり、またルールを守るという道徳心のことを指していると思います。

 さて皆さんは、今後色々な生活を送っていきます。こうした生活のなかで、皆さんに是非いつも念頭において頂きたいこと、それは、附属高校の教育方針、校訓である「仁愛、正義、誠実、弘毅」〔柏高校は仁愛、正義、誠実〕と言う言葉です。先ず「仁愛」は思いやりの心、相手の立場に立てる余裕をもてることです。友人やご両親、先生など皆さんに常に思いやりの心を持って接する、相手の立場に立つ心のゆとりを持つことが必要です。この結果、真の友人や仲間や、恩師など、皆さんを取り巻く人の輪が自然と膨らみ、いわゆる人脈が出来ていきます。次に「正義」これは正しいことを貫く、人として守るべきルール、色々な組織、大学、予備校、会社や家庭などで決められたルールを守って行動することであり、人から尊敬されるようになるわけです。次に「誠実」は、私利私欲をまじえず、偽りがないこと、嘘を言わないことです。嘘つきは、仲間、人間社会から仲間外れにされます。最後に「弘毅」、心の広い様をいうわけで、人を許す、意志が強い、辛抱する、ということです。

 冒頭述べた震災下の混乱にもかかわらず、皆が助け合い、海外からも日本人の美徳であると賞賛を浴びたわけですが、その根底には、この「仁愛、正義、誠実、弘毅」の心が日本人のなかで忘れられずに発揮され、精神的ないわゆる絆が自然発発生的に生まれ連携したからだと言えます。

 卒業は次の階段のスタートです。これから皆さんは、いろいろな進路を目指して旅立ちます。高校という静かな港から、荒海に出帆していく船のようなものです。その困難な航路を導く灯台の灯りが、皆さんにとっては、この「仁愛、正義、誠実、弘毅」と言う言葉です。激しい嵐に会い、どんな荒波に遭ったとしても、この4つの言葉を思い出し、行動すれば、どんな荒波でも乗り越えられると確信しております。
 最後になりましたが、卒業生ならびにご臨席の皆様のご健勝とご活躍をお祈りいたしまして、私からのお祝いの言葉とさせて頂きます。