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理事長トピックス

2019年度 『論語』の学校 ―RONGO ACADEMIA― 開会挨拶

皆さんこんにちは。今年も「論語の学校」にご参加いただき、誠にありがとうございます。「論語の学校」は、今年で15回目の開催となります。また、二松学舎は今年創立142年目を迎え、昨年は附属高等学校が70周年、今年は柏の附属柏高等学校が50周年、同中学校が開校10周年を迎えたところです。このように長きにわたり、教育機関としての使命を果たしてこられたのも、社会からご評価を頂いた結果といえます。今後も、社会に役立ち、我が国の国力を支えていく人材の育成に努めていきますので、引き続き宜しくお願いする次第です。

 さて、本日の講師は渋沢栄一記念財団・渋沢史料館館長の井上潤先生です。渋沢栄一先生といえば、「近代日本経済の父」と言われ、『論語と算盤』の著者でもあり、5年後の2024年新たに発行される新1万円札の肖像に採用されました。また本学のルーツである漢学塾二松学舎の第3代舎長も務められた経緯があります。
渋沢先生が日本経済の父と云われるのは、その生涯を通じて500社近い会社の立ち上げに関与、立ち上げに当り、当時の社会のニーズ、民衆のニーズに沿った紡績、製紙、電気、ガス、金融、交通などのサービスを提供する会社を起業し、福祉、教育などの社会事業にも取り組み、日本経済・社会の発展へとつなげたわけです。先生の起業の基本は「合本資本主義」という考え方で、「合本」の本は「お金と人」を指し、会社の設立に共感する多くの人が出資者として参加、その利益をお互いに分け合うという考え方です。
先生の功績は現代経営学の権威であるピーター・ドラッカーも高く評価し、「ロスチャイルド、モルガン、ロックフェラー、岩崎弥太郎等の業績を超えている」との声まであるほどです。先生の起業の考え方の基本は、「私益」と「公益」の両立を図った点で、正に「論語と算盤」という考え方です。競争一本やり、利益の極大化という西欧資本主義の考え方に、「論語」に根ざす先生の道徳的倫理観や公共性・公益性を加味したものです。すなわち、社会全体を幸福にする価値創造、「正義の実業」を立ち上げたわけです。
では現代、資本主義の姿はどうなっているのでしょうか。超巨大企業の一握りの経営者に富と権力が集中、その利益が還元されず、富める者と富めない者との大きな経済格差社会を形成しています。国際NGO「オックスファム」の調査によれば世界のお金持ち上位26人が、世界の貧困層38億人と同じ額の資産を保有している現実等であり、その格差は年々広がり続けているとの報告があります。
労働者が富を得て幸福になるはずであった資本主義が制度疲労を起こしている、資本主義の終焉とまでいわれており、これを修正する様々な試みが行われていますが、妙案がありません。こうした中気鋭の経済学者、米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授たちは、「企業活動は経済的価値と社会的価値の両立を目指すべき」として、「渋沢先生の合本主義」を資本主義が再び立ち戻るべき場所として、見直す動きがあるのです。
このように130年以上も前の『論語と算盤』の考え方が、その終焉とまで言われている資本主義の解決策の一つとして挙げられていることは、正に「論語」の持つ普遍性・永久性であり、その存在には目を見張るものがあるといえます。

さて話が長くなりました。この後はゲスト講演者の井上先生からたっぷりと渋沢先生のお話が聞けると思います。その後本学の戸内准教授から「論語」に関する興味深い話がうかがえると聞いております。皆さん最後まで、ご静聴頂ければ幸甚です。どうか宜しくお願いいたします。