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理事長トピックス

水戸英則理事長の東京麹町ロータリークラブでの卓話(スピーチ)が、同クラブ週報に掲載されました。

10月28日、東京麹町ロータリークラブで行った、水戸英則理事長の卓話「我が国、私立大学 これからの課題」が、同クラブ週報「KOJIMACHI WEEKLY THE ROTARY CLUB OF TOKYO KOJIMACHI」に掲載されました。

掲載誌:KOJIMACHI WEEKLY (抜粋)

以下に、卓話の全文を掲載いたします。

我が国、私立大学 これからの課題

現在、国内の大学は786 校あり、私立大学が8 割弱(607 校)を占めます。大学生291 万人のうち7 割強(215 万人)が私立大生です。我が国の労働人口とGDP の推移を見ると、労働人口の増加とともに国力が上がっていることが分かります。労働力が増えるのですから当然です。どちらもピークは1997年で、GDP は534 兆円、労働人口は6800 万人でした。そのうち18 歳人口は205 万人でした。しかし、それ以降は減少し、現在の18 歳人口は約120 万人です。2040 年には80 万人、2060 年には60 万人になることが予想されています。

2018 年時点で、労働人口6600 万人のうち大卒者は約3 分の1 でしたが、2040 年には大卒者の割合は約8 割に達すると予想されています。先ほど話したように私大の割合は8 割弱ですから、このままいけば2040 年には、労働人口のうち私大卒業生が6 割を占めるわけです。だからこそ大学、特に私立大学は学生に教育をきちんと施し、我が国を支える人材を育成しなければなりません。

世界における我が国の現状を見ると、さらに猶予はないと感じられます。国民一人当たりのGDP は1993 年には世界2 位でしたが、現在は26 位にまで下がっています。成長は労働者一人の生産性×労働人口によって算出されますが、労働人口が下がり、生産性も下がっていくので、成長が望めません。さらに、2013 年時点で人口比約6割だった労働人口は、2060 年には5割にまで減少し、ますます働き手がいなくなってしまいます。現在、日本のGDP は世界3 位ですが、このまま生産の効率化を進めなければ、2060 年には20 位ぐらいにまで国力が落ちていくでしょう。今の若者たちが年を取ったときには、格差が拡大して一人ひとりが豊かな生活を実現できない可能性があるという事実を知っておくべきです。

厳しいのは経済的な問題だけではありません。我が国の大学も国際競争力を失っています。世界大学ランキングの上位はイギリスとアメリカの大学で占めており、日本の大学でトップ200 位以内に入ったのは東京大学(36 位)と京都大学(65 位)だけです。一方アジアでは、中国やシンガポール、台湾、韓国の大学が次々とランクアップしています。

国内情勢の変化を見ても、これからはAI やIoT、ビッグデータなどが産業や経済にどんどん浸透し、社会、経済構造が大きく変わっていくことが予想されます。18 歳人口の減少に伴い、大学余剰の時代が到来します。地方の大学に行く学生がいなくなると同時に、高卒の雇用市場が縮小し、大学が主な職業教育の場になっていくでしょう。業種も製造業からサービス業・情報通信業へとシフトし、定型業務などはAI 利用が進んで、人間が行う業
務は二極化していきます。一方で、大学の社会人教育は低調であり、女性の再就職の困難さや高齢者雇用の需要拡大への対応も求められます。こういった変化を見越した大学教育を目指さなければならないのです。

こういう状況下文部科学省では、3 年前から委員会や検討会議などを立ち上げ、未来社会における高等教育の有り方について、さまざまな議論を展開しています。例えば18 歳人口減少への対応策として規模適正化を図るために、国公私立を問わず大学同士が連携しやすくしたり、東京23 区内の大学定員の規制をさらに厳しくするなどの措置が予想されます。教育の質的向上という観点では、偏差値教育からの脱却によって個人の資質・能力の底上げを図ったり、変化に対応できる思考力や協働性などを涵養したり、文系でもAI 等へのスキルを養わせたりするなどの意見が出ています。国際的にEU諸国に追いつく仕組みとしては、論文を英語で発表して引用回数を増やすことや、教員や授業のシェアリング、単位互換や学位の国際基準の導入を進めることなどが挙げられています。また、最近の若者は就職してもすぐに退職して、転職したり、資格を取ったり、起業したりする傾向にあり、人生の過ごし方がモノからマルチに変わってきています。そこで、大学は産業界と連携したさまざまな開講科目を設けて受け入れ態勢を整えるいわゆるリカレント教育も議論されています。

このような情勢を眺めつつ今後の大きな変革への対応を進め、我が国の国力を支える人材を育てていくことが今後の大学教育の課題です。そして、その人材の7割は私立大学の学生が占めることになるので、私立大学の教育研究の使命は極めて重大であると言えます。

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