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理事長トピックス

水戸英則理事長 2019年 新年のご挨拶

142年目に入った二松學舍とN’2030 Plan

教職員の皆様、卒業生の皆様、本学関係者の皆様に、謹んで新年のご挨拶をビデオメッセージでお送りいたします。さて、二松学舎は142年目の年を歩み始めました。

本年度から新長期ビジョン、N’2030 Planの本格的実行段階に入りました。ビジョンでは本学の建学の精神に基づいた育成する人材像を、時代の先行き、技術の大変革や多様性も含めて、「日本に根差した道徳心をもとに、良質の知識と英語・中国語等語学力を身につけて、我が国の歴史と文化を理解して、かかる知識を背景として、よりよき社会を実現する目標を持ってグローバルに活動するたくましい人材」としました。この人材像を実現していくためには「2030年教育体制」を構築していく必要があります。

予想される社会環境の大きな変化は、「物の大量生産、廃棄など資本集約型」から「難問解決や人間関係重視の学術等知識集約型」へシフト、「個人の価値観を尊重する生活環境を提供できる社会」を目標とする一方、調査・分析、反復作業の多くはAI等デジタル、テクノロジーによって代替され、人間の仕事ではなくなっていきます。従って、「マニュアルを覚え、正確・迅速な処理力」よりも、「問題発見、設定、解決する力、創造する力」など創造的知性や社会的知性の涵養を通じての人格的教育を行う必要があります。

従って、社会的な技術やトレンドを適切に取り入れるなど、現行カリキュラムの大きな変更が必要であり、法人・教学合同の「学部学科改編企画会議」でその骨子をまとめました。

その概要は、①初年次教育を両学部共通の必須科目とし、期間、内容とも充実・強化、教養、歴史、哲学、英語、数理系の科目を配置、総科目数を絞り、適切なナンバリングを施すこと。
②外国語、キャリア、数理データ、ICT各教育を充実させる、また熟度別クラス編成を実施、高大社接続を意識したカリキュラム編成とする。
③専門課程のゼミを必須とする、④編成は「スクラップ&ビルド」の原則で臨む、の4点であり、この骨子を基に、現在学長の下にWGが組成され、議論を開始しております。

次の話題は、昨年10月に取り纏めが公表された文部科学省 中教審下に設置された「高等教育の将来構想部会」の議論の内容についてです。今から10~20年後、2030年~40年にかけての将来の環境変化を予想し、国連が、2030年をゴールとするSDGs、Sustainable Development Goals「全ての人が教育を受け平和と豊かさを享受できる社会を実現」するという統一目標の下、将来の高等教育制度のあり方について種々提言が為されています。

環境変化の第一は、18歳人口の激減であり、現在の120万人が、2041年89万人と、実に3割近い大きな減少見通しがあり、並行してAI、IOT等第4次産業革命と言われるイノベーションが起き、我々の生活が大きく変わっていく、いわゆるAI社会、サイバー社会、Society5.0時代の到来です。
また我が国は長寿世界一、人生100年時代ということで、2007年生まれの子供は、その半数が107歳まで生きる予測がされるなど、ジュニアも、シニアも長寿になって行くわけで、余生の過ごし方が問題になってくるということです。
こうした時代のキーワードは、「多様性」、「柔軟性」、「機動性」であり、人材育成の基本は、「予測困難な中で変化に迅速かつ柔軟に対応できる人材」が求められます。

この中で、提言されている大学改革の中身は次の5点です。

先ず「大学教育の質の引上げ」で、「何を教えたか」から、「何を学び、身に就けることが出来たか」、学修者本位の教育への転換であり、「学生が身につけた能力の見える化」を図り、これを公表していくということです。
また大学、学部間の教員や授業科目のシェアリングがキーワードで、学部間共通のプログラムで学位を与えられる。本学の文学部と国際政経学部共通の総合科目を設置、共通の先生が教える体制に出来るということです。
2番目は、世界を牽引する人材、高度な教養と専門性を備えた先導的な人材、高い実務能力を備えた人材の各育成、の目的別に大学の機能を分けよということです。私立大学は勢い教育を重点的に進めていく必要が出てきます。
3番目は経営力の強化であり、大学経営への実業出身の学外理事を複数名以上入れることが、私学法で決められる方向です。
4番目は大学の連携・統合です。国立大学は、1法人から多法人制度を導入、地方での国公私連携、プラットフォーム形成を推進、さらに、国公私の枠を超えた「大学等連携推進法人」の創設も、視野に入っており、共有化によるコスト削減が目的ということです。
最後に、リカレント教育の促進です。長寿社会を迎え、ライフステージがモノからマルチへ変わってくる、それに応じた、高等教育が対応できるような体制にすべきという提言です。
この中で今後文科省が重視している点は、「学生本位の教育体制」を前提に「教育の質保証」と「恒常的な情報公開」、これが一番の肝です。

シラバス、GPA、教育指導方法の改善などを通じて学修成果の可視化を図り、学修時間、退学率などの指標と共に情報公開することの重要性が提言されています。第3ラウンド入りの認証評価も教育の内部質保証を重視する方向です。言い換えれば「大学は、一定レベルの学生を受け入れ、4年間、きちんと付加価値をつけ卒業・就職させ、その学修成果を公表できる大学」を基準に、学部・学科の新設も含め設置認可条件を今後厳格化していくことです。

この傾向は本年度から大学改革総合支援事業の要件が、昨年比格段に厳格化されている点に端的に表れています。これは本気で教育改革を行わない大学は、学生が育たず、就職先が劣化、学生募集力が低下、補助金ももらえず、応募学生数の低下とともに、財務状況の悪化から閉鎖に追い込まれても、自己責任であるということであり、この考え方は高等教育の無償化についても、同じであり、留意しておく必要があります。

その無償化問題です。来年4月実施を目途に大学の年間授業料70万円、入学金25万を4年間各免除する、加えて対象学生は、JASSO(日本学生育英会)から生活資金給付金、月10万円前後の支給が決まっており、大きな恩典があります。
非課税世帯(年収270万円未満)は全額免除、300万円未満3分の2、380万円未満3分の1各免除ということで、対象層も広くなっています。また無償化適格・非適格大学は、来年8月末に公表される扱いであり、受験層に浸透していくことになります。
無償化適格大学は、①実務経験のある教員が卒業に必要な単位数の1割以上配置されていること。②理事に産業界出身の外部理事を複数名以上任命すること。③授業計画や評価の客観的指標を設定し、適正な成績管理を実施、公表していること。④法令で定められた財務情報をホームページ等で公表していることの要件をクリアーする必要があります。

本要件の中で、GPAの卒業・退学要件等実質運用、教育成果の公表等は、本学は遅れており、対応を急ぐ必要があります。
無償化対象世帯は、JASSO(日本学生育英会)のマクロ調査によりますと、大学生在学全世帯の2割近くを占めており、本学もこれを上回る層が潜在的に存在することが推察されます。
仮に本学が、無償化資格を受けられないと学生募集力に大きな影響が出てくる恐れがあり、初年度無償化適格を獲得しておく必要があり、そうでなければ、冗談抜きで大学存続の危機に晒されるといっても過言ではありません。

次に高等学校の教育改革です。高等学校も同様に新長期ビジョンに掲げた「2030年型教育体制の構築」を図っていく必要があります。
高大接続問題は来年年度「大学入学共通テスト」開始に向けて、本番に入りますが、大学入試改革と共にその肝は高校教育の改革になるということです。
改革の大きな方向性は、①学習指導要領の改訂、新時代を織り込んだ教科・科目の見直し、②探求型学習、主体的・対話的・ディープラーニングへの対応など学習指導方法・教員指導力の改善・向上、研修の見直し、③学力の3要素、「知識・技能」、「思考・判断・表現各能力」、「主体的に他者と協働する力」を養成するための学修評価、指導要録・調査書の改善、「高校生のための学の診断基礎」の導入などが計画されています。

来年度に指導要領の先行実施があり、2022年度から完全実施される予定となっています。従って、両附属高校に置かれましては、将来を見据えて着々と必要課題を前広に改革を進め、多くの教科に於いて探求型学習を試験導入する等準備を進めて頂きたいと思います。

以上、新年度の課題、話題をお話ししました。本年も教職員の皆様は、各部署でそれぞれ、精励して頂きたくお願い申し上げます。また、卒業生、父母会や関連するステークホルダーの方々に対しましても、引き続きご支援・ご協力をお願いして、新年のご挨拶といたします。