地歴公民科教員。専門は日本史。博物館などに設置されている歴史モノのガチャガチャを回すのが好きで、全種類出るまで回す大人買いをしています。
日本庭園に魅せられて
私は大学で日本史を専門に学び、授業でも歴史の授業を担当することが多いため、「先生は歴史上の人物で誰がいちばん好きですか?」という質問を生徒からよく受けます。私の返答は「室町幕府8代将軍の足利義政」。生徒は一様に「なんで?」「応仁の乱のきっかけをつくった人で混乱を招いた将軍じゃん」と不思議がります。
歴史を好きになるきっかけは、「戦国武将が好きだから」「歴史の漫画が楽しかったから」など色々ありますが、私は、庭園を含む歴史的建築物がきっかけで歴史を学ぶ道に進みました。
いちばん好きな建築物は足利義政の命で建てられた慈照寺銀閣(京都市)です。入口の石垣・竹垣・生垣の三層からなる垣根(銀閣寺垣)、周りの自然となじむように石組みや植生が配されている借景が見事な池泉回遊式庭園、静寂をともなう空間を生み出す枯山水庭園。慈照寺には日本庭園における美の技法がぎゅっと盛り込まれており、最初に訪れたのは幼少の頃でしたが、私はこの時の出会いから日本庭園に魅せられました。
西洋の庭園は、花壇や生垣を左右対称にデザインし、ダイナミックな噴水を用いて、自然界にはない人工的で絢爛豪華な美しさを追求しています。それに対し、日本庭園は移ろいゆく時間(季節)の変化まで計算されて造園されていますが、人工的には見せず、周囲の自然や環境に溶け込むように作庭されています。ここに日本文化特有の侘び・さびを感じ、心が癒されます。
有名な日本庭園はやはり京都の寺院や島根の足立美術館ですが、都内にも、池泉回遊式庭園が美しい清澄庭園や、枯山水と池泉回遊式庭園を味わえるホテルニューオータニ(東京)の庭園といったおススメの日本庭園があります。周囲を近代的な建物に囲まれながらも、それを邪魔なものと思わせずちゃんと庭園と環境が調和しているのが不思議です。日々の疲れを癒す都内のオアシスにぜひ足を運んでみてください。
池や石や苔、敷き詰められた白砂に描かれた模様で当時の人々は何を表したかったのか。私は日本庭園を訪れるたびに作庭に関わった名も知れぬ人たちに思いを巡らせ、歴史とつながる楽しみを味わいます。私にその楽しみをくれたのは政治家ではなく文化人としての足利義政。この話をすると生徒たちの義政を見る目も変わるようです。
清澄庭園
ホテルニューオータニ(東京)の枯山水