學vol.64

二松学舎教員エッセイ 岩田幸訓 教授

二松学舎教員エッセイ 岩田幸訓 教授

二松学舎教員エッセイ 岩田幸訓 教授

愛知県生まれ。専門は行動厚生経済学。博士(経済学)。2015年9月から1年間、ロンドン大学クイーン・メアリー客員研究員。最近の研究で、トロッコ問題という道徳問題における人間の意思決定を記述する「モジュール近視仮説」を経済学的に基礎づけた。

生活を豊かにするサードプレイス

 2016年の夏ごろ、私はロンドン大学の客員研究員としてイギリスに滞在し、帰国の準備を進めていました。それ以前の東京の住居を引き払い、家財道具をすべて研究室に押し込めて渡英したので、イギリスから東京の新居を探していました。新居を決めるにあたって重視したのは、自宅から通える範囲に研究の拠点をもつということでした。結果として、アークヒルズライブラリーという会員制の図書館に目がとまり、そこに通える場所に住むことにしました。

 ライブラリーに通い始めてから感じた利点をいくつか挙げておきます。まず、地上37階から見る景観や静かで開放的な空間によって、息が詰まることなく集中して研究することができます。また、休館日がほぼなく、朝7時から夜12時まで会員ならいつでも出入り自由で、食事や所用で席を外してもすぐに戻れる使い勝手の良さがあります。集中力が途切れたときには、ソファで一息ついたり、日々更新される新刊の書籍を手に取ったりして気分転換をすることもできます。さらに、定期的に開催されるイベントや懇親会などで普段会話をすることがない会員の方々と交流をすることも楽しみの一つです。実際、私は日ごろ研究している行動経済学をテーマに座談会をしたこともあります。

 2020年から新型コロナウイルスの感染が拡大し、ライブラリーが一時閉鎖になることもありましたが、世の中でリモートワークが推奨されるようになった後でも、自宅に引きこもらずにいつも通りの研究を継続できたのはライブラリーという研究拠点があったおかげです。この意味では、私のライフスタイルは時代を先取りしていたと言えるのかもしれません。現代社会では、自分の居場所や活動の拠点が自宅と職場(学校)の二か所に限られがちですが、いわゆる「サードプレイス」を見つけることで生活に自然なリズムが生まれ、さまざまな出会いや交流を通じて人生を豊かにすることができると思います。

 残念ながら、2023年6月末でライブラリーの閉館が決まっていて、私のライフスタイルも大きく変わることが予想されますが、その間の生活をより充実させながら、新たな自分の居場所を見つけようと思います。

二松学舎教員エッセイ 岩田幸訓 教授

遠くに富士山を望む地上37階からの景観

學vol.64

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。