學vol.62

二松学舎教員エッセイ 岡田哲也 教授

二松学舎教員エッセイ 岡田哲也 教授

二松学舎教員エッセイ 岡田哲也 教授

福岡県山田郡上山田町(炭鉱の町 現在の嘉麻市)生まれ。長崎県高島町(軍艦島の本島)で小3まで育ちました。東京学芸大学教育学部卒業。千葉県で小・中・特別支援学校の教諭で22年、教育行政と現場の管理職で15年勤務しました。

小説や映画の楽しみ方──もう一人の主人公

 私は音楽が大好きです。幼い頃からピアノを習っていましたが、主体的に音楽と向き合うようになったのは、バンド活動を始めて、音楽を深く知りたくなった中学2年生のときです。

 そんな折出会ったのがR&Bの帝王 James Brown。「The Ed Sullivan Show」というアメリカの娯楽番組の再放送で、1966年の回に登場した彼を見て、体に稲妻が走ったような衝撃を感じました。鼓動のリズムが演奏のビートにぴったり合っていくような心地よさ、キレのあるダンス、パーカッションのような歌唱、全てに魅了されました。それ以来、60年代の Black Musicに夢中です。放送翌週、音楽関連書籍を買いに半蔵門にある学校から神保町の三省堂書店まで歩き、翌々週に同じく神保町のdisk union、翌月には渋谷・下北沢のレコード屋へ足をのばしました。

 音楽との出会いは将来も方向づけました。古本屋、disk union、楽器屋、レトロな喫茶店、立て看あふれる大学。これら愛おしい文化が溢れる東京一素敵な街・神保町で一生過ごしたいと思い、この街にある大学への進学を決心しました。

 加えて、近現代史研究のきっかけもつくってくれました。60年代は、人種差別やベトナム戦争、ジェンダーなどのひずみが表面化し、若者やミュージシャンが立ち上がり、既存の価値観を大きく揺さぶる運動やカウンターカルチャーが高揚した時代。高校生になった私は、そんな時代の闇も知らず、浮かれて音楽を聴いてきたことが恥ずかしくなり、しっかり社会に向き合おうと、プロテストソングも聴き、戦争や歴史に関する書物にも触れるようにしました。私には平等や平和を声高に歌う歌唱力もなければ、それを表現するクリエイティビティもありませんが、教育という場で一人でも多くの若者に戦争や差別の背景、歴史を生きた市井の人々の思いを伝えられたらと考え、近現代史研究を志しました。

 音楽との出会いがあったから、長年歴史を研究し、教師となった今の自分がいます。好きなものを追求すると、思いがけず自分を変えてくれたり、成長させてくれたりするもの。「大好き」を心の底から大事に思う気持ちは誠実さと、誰かの「大好き」を尊重する寛容性を育むと信じています。だから、若い皆さんも、自分の「大好き」をとことん追求してください!

二松学舎教員エッセイ 岡田哲也 教授

「883(パパサン)」と「110(ワンテン)」

學vol.62

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。