學vol.61

理事長対談「水戸英則×末吉竹二郎」

理事長対談

1990年代後半~2010年代初頭に生まれた「Z世代」は、気候危機の影響を直接的に受けることから、大きな問題意識を持つ人が多いようです。欧州の若者達には、気候危機を招いた資本主義を脱する動きもあるとか。国内外の気候危機対策に詳しい末吉竹二郎氏(気候変動イニシアティブ代表)と、本学の水戸英則理事長が、Z世代が持つべき意識について語り合いました。

*新型コロナウイルスの流行を踏まえ、対面ではなくメールにより行いました。

水戸 SDGsの浸透などで、日本の若者の間でも環境問題への関心が高まってきているように感じます。「気候変動イニシアティブ」(JCI)では、どのような活動をされているのでしょうか?

末吉 JCIは、気候危機対策に積極的に取り組む企業、自治体、NGOなど、いわゆる「非政府アクター」が連携を強めるためのネットワークです。2015年に採択されたパリ協定では、長期目標として脱炭素社会が掲げられました。その実現のために、日本の非政府アクターの取り組みを国内外に伝えることが重要だと考え、情報交換やシンポジウムなどを実施しています。メンバーは着実に増え続け、現在は680の企業や自治体などが参加しています(2022年2月17日時点)。

水戸 気候危機は、私たちの生活と切り離せないものです。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(19歳)の言葉に「変化を起こすのに、あなた方は小さすぎることはない」とあります。Z世代と呼ばれる今の若者たちに、どのような意識を持ってほしいですか?

末吉 気候危機は今の大人世代が開発を進めてきた結果、引き起こしたものであり、大人世代が全責任を持って後始末をすべきです。しかし、若者世代にも自分事として捉えてほしいと思います。COP26で開会の挨拶に立った英国の自然保護家デイビッド・アッテンボローさん(95歳)は「気候危機の被害を受けるのはまだ生まれていない未来の若者たちではなく、今を生きている若者たちだ」とはっきり言いました。気候危機は「今、そこにある危機」なのです。「自分たちの未来は自分たちの手の中にあるのか?」を常に自問して欲しいですね。

水戸 欧州では、Z世代における環境問題への関心が日本より一層高いようですね。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?

末吉 欧州には、国境を越えて共通課題に取り組む地理的・歴史的背景があるように思います。50~60年代に問題となった酸性雨による北欧の森林破壊をきっかけに、環境問題への国際協力が生まれました。また、欧州ではNGOやNPOの活動が非常に活発で、それらの活動を支えているのが若者世代です。昨年、ドイツの連邦憲法裁判所は、当時のメルケル政権が成立させた気候保護法の一部に憲法違反があるとして、温暖化対策の強化を命じる判決を出しました。この訴訟の原告は、北海の小さな島に住む若いきょうだい達で、NGOやNPOが全面的にバックアップしました。日本でも若者たちの活動が出てきています。大人世代はそろそろ彼らにバトンを渡す時ではないでしょうか。

気候危機に直面しZ世代の脱資本主義、社会主義への傾倒が増えています。―水戸 英則

みと・ひでのり●1969年九州大学経済学部卒業。日本銀行入行、フランス政府留学、青森支店長、参事考査役などを歴任。2004年、二松学舎に入り、11年理事長に就任。文部科学省学校法人運営調査委員、日本私立大学協会常務理事、日本高等教育評価機構理事などを務める。

水戸 私も同感です。今後、気候危機を食い止めるために、教育機関で担うべきことは何でしょうか? 本学では、カリキュラムや授業に気候危機に関する科目を入れることも考えています。

末吉 中学、高校レベルでは、まず気候変動に関する科学的基礎知識を学ばせることです。加えて、途上国などの同世代の若者たちが苦境に追いやられていることも教えてほしいです。気候危機は自然災害に限らず、社会的弱者や人種間の格差などの根深い社会問題を引き起こしていると学ぶ必要があります。大学では、学生たちが自分の人生のあり方を考えるようなカリキュラムが欲しいですね。今、世界は20世紀型の経済を壊し、21世紀型経済をつくる「破壊と創造」の大変革期にあります。こういった時にこそ、学生は様々な情報に惑わされることなく、何が本質で、何がその場しのぎのものなのかを見分ける力を養ってほしいのです。大学側も、例えば「SDGs学部」のようなものを新設するくらいの見直しが必要ではないでしょうか。

水戸 気候危機の“犯人”は、資本主義の利益至上主義の結果であると言われています。欧州では、Z世代の若者たちに脱資本主義、社会主義への傾倒という動きがあるようですね。

末吉 報道等によれば、確かに欧米の若者の間で資本主義の評判が悪く、社会主義の人気があるようです。しかし、気候危機などの問題は、資本主義か社会主義かというイデオロギー論争では解決の糸口が見つからないように思います。社会主義経済であっても、石炭をたくさん燃やせば気候危機は一層進みます。問題の核心は、いかにして開発や経済成長に「環境第一」「生物多様性の保全」「社会的弱者への配慮」といった新しい価値基準を埋め込み、より早く、より高く、グリーン・トランスフォーメーションを実現することではないでしょうか。

水戸 英国の経済学者ケイト・ラワースさんの「ドーナツ理論経済学」にも通じる話ですね。この理論では、ドーナツの穴の内側を食糧や健康、教育、エネルギーなどが不足した状態に例え、ドーナツの外側を気候危機や生物多様性の喪失など地球環境の破壊に例えています。どちらにも陥らない範囲が人類にとって安全かつ公正であり、これから目指すべき方向だとしています。無限の成長への構造的依存から脱する21世紀の新環境政策論を、ぜひ今の若者達に学んでほしいですね。

「自分たちの未来は自分たちの手の中にあるのか?」と常に自問すること。―末吉竹二郎

すえよし・たけじろう●1945年、鹿児島県生まれ。67年、東京大学経済学部卒業、三菱銀行入行。同行ニューヨーク支店長、取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取などを歴任。98年、日興アセットマネジメント副社長に就任。2002年の退社を機に環境問題に本格的にかかわる。03年、国連環境計画金融イニシアティブ特別顧問に就任。UNEP FI国際会議を東京に招致。18年、気候変動イニシアティブ設立および代表就任。

學vol.61

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。