學vol.61

漢学塾伝統の少人数教育を高度化、新しい価値創造ができる人材の育成を目指す──145周年を期して二松学舎の新しい挑戦──学校法人二松学舎 理事長  水戸英則

漢学塾伝統の少人数教育を高度化、新しい価値創造ができる人材の育成を目指す──145周年を期して二松学舎の新しい挑戦──学校法人二松学舎 理事長  水戸英則

はじめに、「N'2030PLAN」における21世紀型教育体制とは

 本学は、1877年、漢学者三島中洲が新時代を担う人材育成を目指し、「己ヲ修メ人ヲ治メ一世ニ有用ナル人物ヲ養成ス」の建学の精神の下、少人数教育による漢学塾を起源としてスタートしました。本学の長期ビジョン「N'2030PLAN」では、個々の学修者の立場に立ち、カリキュラム改革を通じて、教養基礎知識や専門知識を基に、論理的思考力・創造力・情報収集力を身に付け、未知の問題に挑戦し解決する力、新しい価値創造ができる力、そして多様な価値観を理解し、リーダーシップを持って協働・実行する力、板挟みにあった時、それをはねのけ復元する力などを身に付けた三位一体の人材(注1)を育成する「21世紀型の教育体制」の構築を目指しています。このため、教養教育を初年次学部共通で設け、文系ながら数理データサイエンスや統計学等理系の科目もそろえ、本年4月から実施予定です。今、時代はAI、DX(デジタルトランスフォーメーション)など高度情報化社会へと移行しています。中央教育審議会の「教育の質保証」の審議では、ニューノーマルにおける初等中等・高等教育実現がテーマとなり、「学修者本位の教育の実現」「学びの質の向上」「大学4年間で真の付加価値を身に付ける教育」の実現を謳っています。このように大学教育の質保証は重要であり、自主的、主体的に質の改革・改善に努めることは、大学教育に関わるもの全員が常に頭に入れておくべき理念であります。これを機会として本学伝統の少人数教育に新しい考え方を導入、高度化し、さらに磨きをかけていく時代に入ってきております。

(注1)学校法人二松学舎 長期ビジョン「N'2030PLAN」より

本学の教育の質保証の現状

 本学では、学びの質向上などを目指し、2014年に教務支援システムである「ライブキャンパス」を導入しました。これにより、学生の履修登録・成績把握、教員のシラバス作成、各授業の課題提示・提出など双方向でのやり取りの履歴が取得可能となり、先生方の様々なご努力もあり成績・学習管理面の充実化とシステムの利便性を向上させてきました。
 ただ、現状のシステムでは、学修成果可視化の観点から更なる機能の充実が必要であることや、学生指導の観点からもデータ間の連携が取れず機能が不十分であることなど、いくつかの問題点があります。さらに、我が国の大学共通の問題としてある、❶アドミッション段階での「入学前の学習歴・面接や学力試験の入試情報」取得では、多様な入試方式の中、入学生間の実力のばらつきがあり各能力に応じた教育が十分に出来ていない、❷カリキュラム段階での「出欠、アクティブラーニングの実施状況、GPA等の修学情報等」においては、アクティブラーニングや留学プログラムへの学生の忌避傾向があること、❸ディプロマ段階での「就活期間の相談事項、活動内容や学生の適性に応じた就職先の選択とその判断材料取得」では、個々の学生のGPA結果と社会人基礎力(ジェネリックスキル)との正相関に問題があるなど、これらの更なる適正化の必要があり、最終目標である「就職」という社会人としての出発点に立つ上での前提条件をより明確化することが課題です。

創立140周年記念式典映像より(「漢学塾二松学舎」講堂の様子)

教育と研究の両輪を軸とし、学生との対話で得た知見の下、AI分析やDXの導入、チームティーチングにより少人数教育を一段とレベルアップ

 今後は、先生方のご協力を得ながら、まずはオンラインを含む教育の中核でもあるLMS(注2)の充実を引き続き図りつつ、❶就学中の成績結果であるGPAの信頼性向上のため採点基準のルーブリック化・各先生方への共有化、採点結果の均衡化を図ること、❷教学マネジメント関連データを統合・連携し、DXを導入、履歴情報にAI分析を入れ、個々の学生の能力に応じた教育の提供かつ最適な能力の探知を図ること、❸新たな教育手法やグッドプラクティスを共有化し、FD・SDを通じて教育内容や手法の充実化を図ること、❹教育と研究の両輪を軸(注3)に先生と学生が意見交換を行いながら、先生方も学生とともに学ぶことで新たな気付きやアイデアを生み出す研究活動に繋げていく、さらには学生参加型のFDの導入などを通じて先生方がチームとして教育課程を編成するなどの施策を展開すること、❺学修成果としてのディプロマサプリメントを信用力のあるものにしていくことなど改革の視点が挙げられます。これらを通じて、GPAと社会人基礎力の相関関係を最適化していく必要があります。また並行して現在実施している当該基礎力の成長を支援するPROGテスト(注4)の参加率を上げ、結果分析により、GPAと社会人基礎力との相関関係の適正化・精度の向上を図っていくことも必要です。
 以上、漢学塾以来の伝統の少人数教育を継承しつつ、教職員の皆様方の知見を集め、現代の科学的知見、DXやAIを入れて、正に学生主体の教育をレベルアップ、各学生の能力・適性にカスタマイズした教育を提供し、三位一体の人材育成を実現していくことが、N'2030PLANの「21世紀型教育体制の構築」につながることとなります。より質の高い教育、学修者の目線に立った教育をする大学が選ばれる時代、そうした評価を更に固めるため、「教育の質保証」を本学でも出来るところから弛みなく実現して行きます。

(注2)学習管理システム「Learning Management System」

(注3)教員が自らの研究が学生の教育に活かされているのか自己評価し、部局長、同僚、学生等の多面的な評価を実施。

(注4)PROGテストは、社会で求められる汎用的な能力・態度・志向を測定可能。測定は、リテラシー(物事の適切な理解・解釈・活用力)とコンピテンシー(社会人基礎力=職場での成果につながる行動特性)の2つの観点から行い、学生が自身の現状を客観的に把握することが出来るとされる。社会人基礎力は人間力、学士力、就業力とも言われる。

學vol.61

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。