學vol.60

二松学舎教員エッセイ塩田今日子 教授

二松学舎教員エッセイ塩田今日子 教授

二松学舎教員エッセイ 塩田今日子 教授

静岡市生まれ。専門は韓国語学。東京外国語大学大学院修士課程修了。1986年から89年まで韓国ソウル大学大学院に留学。座右の銘は「迷ったら怖い方」。恋愛相談が得意です。悩みがある方はいつでも相談に乗りますよ。

信頼すること

 私の趣味は乗馬です。高校で馬術部に所属していましたが、四十歳を過ぎてから健康維持のためにまた乗り始めました。

 馬は大きくて力も強いですから、その気になれば乗り手の指示に逆らうのも振り落とすのも簡単です。それに自分の体を預けるのですから、何よりも馬に対する信頼が不可欠です。

 ありがたいことに、馬は信頼すればするほどそれに応えてくれます。馬は臆病な動物なので、突然大きな音がしたりすると、びっくりして挙動不審になることがあるのですが、乗り手が落ち着いてなだめれば、すぐに落ち着きを取り戻します。逆に乗り手が不安を感じて怖がったりすると馬はそれを察知し、益々恐怖を感じて暴走したりします。危険なときほど冷静さと信頼が求められるのが乗馬の難しいところです。

 馬は目標を見定めることの大切さも教えてくれます。たとえば、馬を右に行かせようとするとき、下手な乗り手は、馬の首を見ながら、必死で手綱を右に引っ張ります。そうすると馬は首を右に曲げたまま、左に行ってしまったりします。そんなとき一番大切なのは「行き先を見る」ことです。乗り手が顔を上げてしっかり行き先を見れば、手綱で制御しようとしなくてもその意思は明確に馬に伝わり、馬は自然に右に曲がって行くのです。

 東京オリンピックでは世界のトップライダーの演技を見ることができましたが、互いに信頼関係にある人馬の動きは大変美しく感動的でした。手や足を使って頑張って指示を出さなくても馬は人の意思に反応して動くし、どんなに大きくて恐ろしい障害物も飛び越えて行けるのです。馬を完璧に信頼し、人馬一体となって動くことが、私の永遠の目標です。

 これは、実は人生にも通じることだと思います。人生の目標を達成するためには目標地点をしっかり見定めて明確にイメージすることがとても重要です。また、人を動かそうとするときに欠かせないのは相手に対する信頼です。信頼さえあれば余計な力を使わなくても人は動いてくれるものです。

 将来教師になろうとする人も多いと思いますが、ぜひ生徒を信頼できる先生になってください。でも、他人を信頼するためには、まず自分自身を信頼することが先決ですね。

二松学舎教員エッセイ塩田今日子 教授

オリンピックのために改修される前の馬事公苑にて。

學vol.60

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。