學vol.60

特集:2022年4月、文学部に新学科スタート!〜歴史文化学科大解剖。〜

特集:2022年4月、文学部に新学科スタート!〜歴史文化学科大解剖。〜

本学は2022年4月文学部に新たに「歴史文化学科」を開設します。過去を知ることで、現代を理解し、未来を見据える。歴史という時間軸を通して世界のなかの日本を学ぶ――それはどういうことでしょうか。なぜ「歴史学科」ではなく、「歴史文化学科」なのか。日本史専攻の小山聡子教授が、同学科の特性や目指しているものについて語ります。

なぜいま「歴史」なのか

 少子高齢化、経済成長の鈍化、そして新型コロナウイルスの感染拡大など、私たちは困難な時代に生きています。そうしたなかで未来を考える際、先人たちがかつてどのような経験をし、考え、行動してきたのかを知ることが大いに参考になります。たとえば、長い歴史のなかで人間は何度も疫病を体験してきました。それへの対処の方法は昔と今とでは違います。私が専門としている中世には、京都で疫病が流行ると、陰陽師が天皇の住居と山城国の四隅から、疫病をもたらした鬼を祓う四角四堺祭を行っていました。現在とは大きく異なる対処法ではありますが、当時の人々が疫病や死への恐怖をどのように乗り越えようとしたのかを学ぶことにより、現代社会を見つめ直すことができ、これからの時代に生かせる部分もあります。この点はとても重要だと思うのです。
 歴史の研究には、史料を正確に読解、分析し、論理的に考察すること、すなわち解読力、分析力、論理的思考力が求められます。人は誰かに何かを伝えるときには、その根拠となるものを示し、論理立てて、説明しなくてはなりません。本学科で培われた能力は社会に出たときに必ず役に立ちます。

アジアのなかの日本

 明治10年、漢学塾から始まった本学には漢学、哲学、思想の研究における伝統や蓄積があります。その礎に関わるがゆえに新しい学科の名称を「歴史文化学科」としました。
 本学科の強みは、日本史、欧米・アジア史、思想・文化史などを分野横断的に学べるところです。私の研究対象である浄土真宗の宗祖・親鸞は、近代において、ドイツに宗教革命をもたらしたマルティン・ルターと比較されました。日本には、西洋に対する憧れが大きかったと同時に、西洋に匹敵するような日本の文化や宗教を見出そうという動きがあり、浄土真宗がキリスト教プロテスタントに比肩するとされたのです。その解釈には無理があったのですが、時代がなぜそれを求めたのかを研究することで、私たちは近代の持つ一面を知ることができます。
 また、日本史を学ぶ際には中国の存在を避けて通ることはできません。中国と日本との間の人的な交流の歴史は古く、中国から日本へは様々な文化が伝わってきました。それを日本人がアレンジしながら日本文化を作ってきたのです。本学には中国学に関する膨大な資料の蓄積があり、中国学を専門としている教員もたくさんおります。中国、ひいてはアジアのなかの日本を学ぶ大学としての大きな利点といえるでしょう。

人間が長年積み上げてきたものを現代に生かす。歴史を学ぶ者の大切な役割だと思います。(小山聡子教授)

(こやま・さとこ)1976年茨城県生まれ。98年筑波大学第二学群日本語・日本文化学類卒業。2003年同大学大学院博士課程歴史・人類学研究科修了。博士(学術)。現在、二松学舎大学文学部教授。専門は日本宗教史。

歴史の魅力を伝え、未来を豊かにする人材に

 本学は東京の真ん中に位置しています。徒歩で、歴史を学ぶ上で重要な施設――国立国会図書館、国立公文書館、昭和館、遊就館、国立劇場など――を訪れることができます。「九段学」という授業では、それらの施設を訪れながら調査研究の方法を学ぶことができます。本学の立地だからこそできる授業といえるでしょう。座学に加えて、実際に現地に立ってみる歴史文化フィールドワークも行います。さらに、6つあるゼミナールでも、いろいろな所を訪れます。たとえば、私のゼミナールでは、和歌山県の熊野古道を歩き、中世に生きた人々の熊野詣に思いを馳せるなど、そこでかつて起こったことを追体験することなどもやってみたいと思います。
 学生時代にそうした機会を生かして歴史文化を学び、卒業後には歴史の魅力を伝える教員や学芸員を目指してほしいですね。あるいは歴史小説家としてある時代に新たな光を当てる、ゲームクリエイターとして歴史上の人物キャラクターを創造するといったこともできるかもしれません。
 まだまだ人の目に触れていない史料もたくさんありますし、明らかにされていない歴史的事実も多くあるはずです。歴史学は、少し視点を変えるだけでも新しい世界が見えてくる学問です。歴史は現在、さらには未来へとつながっているのです。

小山聡子著『もののけの日本史 死霊、幽霊、妖怪の1000年』中公新書

小山聡子著『もののけの日本史 死霊、幽霊、妖怪の1000年』中公新書

 もののけは、長い歴史の中で、お化け、幽霊、妖怪など様々な名で呼ばれてきました。生前に怨念を抱いた人間に病や死をもたらすものとしておそれられたり、人を怖がらせるが、どこか滑稽で娯楽のように扱われたり、あるいはアニメーションの主人公にされたり。その時々の社会を映し出す鏡のような存在でもありました。たとえば、12世紀頃からは骨に霊がついていると信じられたことから死体も幽霊と呼ばれたそうです。
 もののけという目に見えないものに人々はどのように向き合い、接してきたのか。著者は古文書をはじめ膨大な史料を渉猟し、藤原道長の生きた10~11世紀から妖怪アマビエが人気を博すコロナ禍の現代までを俯瞰します。もののけを通して、日本人の文化や精神の変遷が見えてくる書です。

●《歴史文化学科》教員メッセージ

頭で考え、心で感じる学問 歩きながら考え、読んで聞いて歴史を語ってみませんか。(林 英一専任講師/専門分野:日本近現代社会史)

 わが国における歴史学は、日本史、東洋史、西洋史に分かれて発展してきましたが、近年はマクロな視点で日本史と世界史をつなごうとするグローバル・ヒストリーや、ミクロな視点で個人の内面に迫るエゴ・ドキュメント研究が注目されています。
 日本史専攻では、「世界の中の日本」という視点から、古代から近現代にかけての「日本人」の足跡を探求することができます。
 九段キャンパスの近郊には、江戸城跡、皇居、国立の公文書館、美術館、博物館、劇場、図書館があります。フィールドワークの授業では、それらの施設を実際に訪れて、様々な資料に触れることができます。
 また、古文書からオーラル・ヒストリーまで、読む・聞くための技法を身につけることで、それらの資料を使って、卒業研究を行えるようになります。
 私が大切にしたいのは、学生たちが答えのない問題について自分の頭で考える「クール」の部分と、歴史の現場を訪れることで感動しながら経験値を積む「ハート」の部分、それらを両立させることです。とくに当時を生きた人びとの感情まで理解することによって、はじめて歴史は私たちの血となり肉となると考えています。しかしそのためには、沢山の資料と向き合う時間と根気が求められます。
 学生には、自分なりのこだわりをもって、粘り強く物事に取り組む姿勢を身につけてほしいと思っています。

林 英一(はやし・えいいち)慶應義塾大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。一橋大学博士(社会学)。著書に『残留日本兵』(中央公論新社)、『戦犯の孫』(新潮社)、論文に「小野田寛郎と横井庄一」など。

文学・史学・哲学を網羅した漢学の伝統は本学科にも生きています。(王 宝平教授/専門分野:中国史学・日中交流史)

 私の専門は、清の時代を中心とした中国史と近現代における日中文化交流史です。日中両国は、人類の文明史においても稀にみる、長くて豊富な交流を重ねてきましたが、清の時代も長崎を通じて特色のある交流が展開されました。
 明治10年に創立した本学は漢学の学び舎としてスタートしました。漢学には文学、史学、哲学が含まれています。それは「文史哲」とも呼ばれており、漢学がもつ幅の広さは本学科にも生きているのです。
 歴史研究は対象を細分化するだけでなく、広げていくことも重要です。日本史専攻であっても、たとえば遣隋使、遣唐使の時代は中国の歴史と切り離して考えることはできません。思想や文化を考える上で欧米やアジアからの影響を無視することはできないでしょう。また、東洋史に限っても、ある物事が清と元の時代とではどう違っていたのか、比較も必要になりますよね。学ぶ過程で他の文明、あるいは他の時代との関係性に目を向けることで、複眼的思考を身につけることができるのです。
 若い世代は、ゲームの影響もあって、三国志への関心が高いようです。三国志は主に中国文学科で取り上げるテーマになりますが、文学部では学科や専攻を跨いで学べるという利点があります。他学科の専門科目も履修できるので、国文学科や都市文化デザイン学科の学びも合わせ、融合的な視点で歴史を見つめ、新たな発見をすることができるでしょう。

王 宝平(おう・ほうへい)杭州大学(現・浙江大学)外国語学部日本語科卒業。北京外国語大学北京日本学研究中心修士課程修了。関西大学博士(文学)。浙江大学・浙江工商大学を経て、2018年に二松学舎大学へ赴任。

過去のデータから予測する多種多様な歴史と文化を学び未来を展望していきましょう。(中川 桂教授/専門分野:日本芸能史)

 歴史というと政治史や経済史のイメージが強いと思いますが、本専攻では芸術、文化、衣食住など広範囲に及ぶジャンルに光を当て、その歴史的な背景や変遷について学ぶことができます。
 文学と歴史文化を比較すると、前者は作品や作家の研究が中心になるのに対して、後者は、たとえば江戸時代の寄席は社会においてどのような役割を果たしていたか、幕府による規制にはどのようなものがあったのか、など問題提起を通して芸能の内容とその時代背景を理解することができるでしょう。
 私は授業のなかで落語を一席演じることもあります。映像で見るのと実演に接するのでは全然違います。劇場や寄席にも出かけます。実体験を通して当時の状況をより想像できるように。
 私たちが未来を予測する際に参考にするのは過去のデータです。過去から現在への流れを学ぶことで、現在から未来への流れを展望するのです。従来の史学の枠にとらわれない、多種多様な事象を研究したい学生に、特にお勧めです。
 高校までの歴史の勉強は、過去の偉人が何をやったか、どのような政治的出来事があったかを知ることが重視されました。大学ではある時代や社会の特徴に基づいた研究を行います。その過程で興味や関心を広げていってほしいと思います。好きなものをたくさん持っていると人生は豊かになります。思想・文化史専攻は、エンターテインメントに関心の高い学生にも向いているのではないでしょうか。

中川 桂(なかがわ・かつら)大阪府生まれ、兵庫県出身。大学では史学地理学科で日本史を専攻し、大学院では文学研究科で芸能史・演劇学を専攻。大阪大学博士(文学)。近世の寄席芸能や芸能興行などを研究する。

「歴史文化学科」大解剖 「歴史文化学科」大解剖

學vol.60

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。