學vol.57

理事長対談 vol.26「水戸英則×小島進」

理事長対談 vol.26

「近代日本経済の父」と呼ばれる渋沢栄一は、二松学舎の創立者である三島中洲と親交が深く、第3代舎長を務めました。渋沢の故郷である埼玉県深谷市では、彼の思想を現代に伝えるために、さまざまな取り組みをしています。渋沢に対する想いや、学校教育についての考えを、小島進深谷市長に伺いました。

*新型コロナウイルスの流行を踏まえ、対面ではなくメールの往復による対談を行いました。

水戸 渋沢栄一先生生誕180年となる今年、深谷市で「渋沢栄一アンドロイド」が公開されました。現代によみがえった渋沢と対面し、どのようなお気持ちでしたか。

小島 実に精巧に作られていて、率直に感動しました。アンドロイドを目の前にし、栄一翁の功績を肌で感じられたと同時に、今を生きる私たちの姿をしっかりと見据えてくださっているような印象を受けました。改めて背筋が伸びる思いです。

水戸 アンドロイドの除幕式で、小島市長は「新型コロナウイルスで大変な今、渋沢先生がいたらと思う」と挨拶されていましたが、どのような想いがあったのでしょうか。

小島 私は、常日頃から「もし、栄一翁ならどのように考えるだろうか」ということを念頭に置いて市政運営にあたっています。新型コロナウイルスは市政にも経済にも大きな影響を与えました。栄一翁が遺した考え方や言葉は、現代の私たちが抱える様々な課題に立ち向かうためのヒントを与えてくださっているように感じています。

水戸 以前から深谷市では、「論語の里ガイドアプリ」をリリースされたり、「論語教室」を開催されたりと、論語を通して渋沢先生の思想や功績を広めていらっしゃいますね。

小島 アプリでは、栄一翁ゆかりの場所をご案内しており、市民はもちろん、遠方から観光に来られた方にも大変好評です。論語教室は、地元のボランティアの皆さんが運営しており、行政発ではない「市民協働」の素晴らしい取り組みであると誇らしく思います。アンドロイドは、栄一翁の肉声を再現し、「道徳経済合一説」の講義を聞くことができます。来年の大河ドラマは栄一翁が主人公ですし、2024年の新紙幣発行では栄一翁が1万円札の肖像画になり、さらなる注目が集まることでしょう。深谷市においでになった方が論語に触れ、栄一翁の精神を感じられるようにしたいと考えています。

理事長対談 vol.26「水戸英則×小島進」

みと・ひでのり●1969年九州大学経済学部卒業。日本銀行入行、フランス政府留学、青森支店長、参事考査役などを歴任。2004年、二松学舎に入り、11年理事長に就任。文部科学省学校法人運営調査委員、日本私立大学協会常務理事、日本高等教育評価機構理事など

水戸 学校教育についてはいかがお考えですか? 本学では、建学の精神である「東洋の精神による人格の陶冶」に基づき、大学や附属の高等学校、中学校で論語の授業を行っています。学生や生徒は、論語から「人とはどう生きるべきか」を学び取っているものと思います。

小島 深谷市の学校教育は、栄一翁の心を受け継いで「立志と忠恕の深谷教育~ふるさとを愛し、夢を持ち志高く生きる~」を基本理念としています。忠恕は「まごころと思いやり」を意味します。立志と忠恕は、目まぐるしく変化する社会の中で拠り所となり、生き抜く力を与えてくれる指針であると考えています。「道徳心」を重んじる二松学舎大学の教育理念にも同じような考え方があるのではないでしょうか? 大学教育の役割は、学術の専門的研究、知識の習得、個人の能力開発など非常に幅広く、人格形成を通して、社会性を成熟させる場でもあろうかと思います。若者たちがどのような道に進むとしても、志を持ち続け、常に人や社会を慮ることが、今の日本に求められているのではないかと思います。

水戸 まさにその通りです。グローバル化、AIやIoTなど第4次産業革命が進む現代社会において、若者たちには日本に根ざした道徳心を大切にして欲しいと考えています。論語では「仁」、すなわち誠実さや思いやりを重んじていますが、仁の精神を持ちながら、自分で考え、判断し、行動できる力を身につけてもらいたいですね。

小島 若者は、次世代を担う宝です。高度な情報技術は日々進化を続け、AIなどがすでに日常生活に溶け込みつつある今、若者たちには、「人とのつながりを大切にして欲しい」と思います。時代や社会環境が変わっても、忠恕の精神の尊さは変わりません。一人でも多くの若者に、栄一翁の講義を聞いていただければ嬉しい限りです。

水戸 渋沢栄一の精神は、どのような時代になっても色あせることがありません。本学でも、絶えず若者に伝え続けたいと思います。

理事長対談 vol.26「水戸英則×小島進」

こじま・すすむ●埼玉県深谷市長。1960年、埼玉県深谷市生まれ。県立本庄高校を卒業し、95年に深谷市議会議員に初当選。07年、埼玉県議会議員に就任。10年に深谷市長に就任し、現在3期目。渋沢栄一生誕の地として、アンドロイドの制作など様々な顕彰事業を進めるほか、アウトレットモールを核とした産業拠点整備、農業課題解決を図るアグリテック事業などを推進している。

理事長対談 vol.26「水戸英則×小島進」

深谷市庁舎と深谷市イメージキャラクター「ふっかちゃん」。

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広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。