戸内俊介准教授(文学部中国文学科)

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戸内俊介准教授(文学部中国文学科)

スポーツの戦術トレンドから見えてくるもの─野球の「フライボール革命」を中心に─

 筆者は、時に好んで野球を見るが、本エッセイでは最近の野球に対する雑感を述べたい。

 プロスポーツの戦術には、その時代ごとにトレンドがある。これは、常に勝利の最適解を求めようとする姿勢の反映であるが、近年はビックデータを基により効率的なゲームを展開するようになり、その結果、誰もが同じようなスタイルを取る「正解のコモディティ化」(お股ニキ(@omatacom)2019による)が起こっている。例えば、アメリカプロバスケットボールリーグNBAでは全チームの3ポイントシュートの企図が年々増加している。これは、3ポイントシュートを狙った方が、2ポイントシュートよりも期待値が高いというデータに基づき、全チームが似た戦術を採用したことに起因する。

 野球でも類似の現象が見られる。従来、打撃はゴロを打つことが基本とされてきたが、2017年ころからアメリカメジャーリーグでは、打球に角度をつけて強く打ち付けるスタイルが急速に一般化していった。データ解析の発展で、守備シフトが進化し、フィールド内に飛ぶ打球は以前よりもアウトになりやすくなったため、その対応として、打者はホームランを初めとした長打を狙うべく、高く遠くに飛ばすこと、謂わば「狙ってフライを打つ」ことを意識し始めたのである。所謂「フライボール革命」と呼ばれる現象である。この流れは日本にも来ており、代表格は、福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手や、本学附属高校出身の広島東洋カープ鈴木誠也選手である。

 フライボール革命はその代償として三振数の増加を招いており、ホームランか三振かという極端な状況が生まれつつある。多くの選手がそのような二者択一的打撃スタイルを採ることで、ゲームが単調になることは否めない。

 今年引退したイチロー選手が、会見で「アメリカは頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある」、「日本の野球は変わらず、頭を使う面白い野球であってほしい」と述べたことは記憶に新しいが、この発言は、まさに「フライボール革命」を初めとした「正解のコモディティ化」への危機感の表れだと言えるのである。

参考文献 お股ニキ(@omatacom)『セイバーメトリクスの落とし穴』光文社新書、2019年

戸内俊介准教授(文学部中国文学科)

1980年北海道函館市生まれ。専門は中国語学、古代中国の文字と言語。東京大学大学院博士課程人文社会系研究科修了。2013年本学に着任。著書に、『先秦の機能語の史的発展』(研文出版、2018年2月)がある。

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