學vol.66

頑張っています、卒業生。(榎本 元さん/能楽師狂言方大藏流)

頑張っています、卒業生。(榎本 元さん/能楽師狂言方大藏流)

1991年3月 二松学舎大学附属高校卒業/1991年4月 二松学舎大学文学部国文学科入学、狂言研究会に入部/1995年7月 大藏吉次郎師に入門/1996年3月 二松学舎大学卒業/1997年5月 公益社団法人 能楽協会入会/2012年7月 北海道上富良野町に移住/2023年4月 上富良野町にて、「茶処ワラフ」開業

そろりそろりと、縁を紡ぎ。

 二松学舎大学に国際政治経済学部が新設された1991年の春。真新しい当時の沼南(現:柏)校舎2号館の学生ホールで、附属高校から一緒に進学した友人たちと屯している所に現れた、袴姿のお姉様。見学に来ない? との一言に、甘い蜜に誘われるカブトムシの如く導かれ……というのが、私と狂言研究会、狂言との出会いでした。

 その時、狂言に関する知識は全くなく、ましてやいずれプロの道に進もうとは夢にも思わず、そんな一瞬の小さな出会いから縁が広がり、現在に繋がっていることを、時折不思議に感じます。

 卒業後、大藏吉次郎先生の内弟子としてプロを目指すと決めたのも、職業に対する理想等よりも、その「縁」に対して真っ直ぐに生きたいと思ったのです。

 伝統芸能の厳しい世界の中、師匠の芸に憧れ、能楽という芸能の奥深さを肌で感じながら、気がつけば芸歴も三十余年を過ぎました。僭越ながら、このほど重要無形文化財保持者(総合認定)にも認定していただきましたが、私自身はただ長く続けてきたに過ぎず、すべては縁あって支えて下さった皆様のお陰と痛感しています。

 今私は、能楽師の傍ら、北海道の上富良野という小さな町で、イベントスペースを兼ねたカフェを開いています。そういった場所を作ることで、狂言に限らない文化の普及に力を注ぎながら、そこで生まれた小さな縁の種が広がっていくことを願っているのです。

 狂言の台詞にもありますが、「そろりそろりと」縁を紡いでいきたいと思います。

 一番身近な小5と5歳の息子たちが、今一つ狂言に興味無さそうなのが、今の悩みです(笑)。

頑張っています、卒業生。(榎本 元さん/能楽師狂言方大藏流)

學vol.66

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。