學vol.60

理事長対談 vol.29「水戸英則×伊東香織」

理事長対談 vol.29

本学の創立者・三島中洲は、岡山県倉敷市で生誕しました。当時の備中松山藩で学び、師である山田方谷の私塾を受け継ぎ、藩校「有終館」の会頭を務めるなど、故郷の学制改革に尽力しました。本学と倉敷市は2016年に連携協定を結び、学芸・文化観光等の発展のために協力しています。伊東香織市長と水戸英則理事長が、歴史文化を学ぶ大切さについて語り合いました。

*新型コロナウイルスの流行を踏まえ、対面ではなくメールにより行いました。

水戸 倉敷市では、三島中洲先生の功績について広く啓蒙活動を行っているそうですね。倉敷市で中洲先生はどのような存在でしょうか。

伊東 郷土の誇れる偉人であり、尊ぶべき教育者として、中洲先生は地域で愛されています。市内の小学校3・4年生は、社会科の副読本で郷土の偉人について学んでおり、また、5年生の「総合学習の時間」では、地元の方々が講師となり、紙芝居や石碑の見学などを通して中洲先生を学ぶ取り組みを進めています。倉敷市は、中洲先生をはじめ、山田方谷(幕末期の陽明学者)の師である丸川松隠、大正天皇の東宮侍講を務めた川田甕江、帝国書院創立者の守屋荒美雄など教育・文化に卓越した多くの人物を輩出しており、古くは奈良時代に学者として初めて右大臣を務めた吉備真備にまで遡ります。

水戸 今の若い世代の人達に、郷土の偉人たちから学んでほしいことをお聞かせください。

伊東 倉敷市は、早くからまちづくりに教育・文化施設を組み込んできました。その歴史が、伝統的な町並みを保存した「倉敷美観地区」を育み、2016年伊勢志摩サミットの「G7倉敷教育大臣会合」開催や、文化庁認定「日本遺産」を3つ有することにつながっています。若い世代の人達には、先人の努力によっていかに地域が発展してきたかを知ってもらい、地域の歴史、文化、芸術に触れ、もっとまちを好きになってもらうことで、将来に向かって地域の力を伸ばしていただきたいと思います。

水戸 本学では、来年度から文学部に「歴史文化学科」の創設を予定しています。今のご意見は正に能動的、体験的な学修に資する意味で、有益だと思われます。また、本学では都市と文化のつながりや、文化資源を利用した都市空間デザインなどについて研究しています。倉敷美観地区は、都市部における文化的環境づくりの実践と言えますね。

自ら能動的、体験的に学ぶことで若者達は大きな果実を得ます。―水戸 英則

みと・ひでのり●1969年九州大学経済学部卒業。日本銀行入行、フランス政府留学、青森支店長、参事考査役などを歴任。2004年、二松学舎に入り、11年理事長に就任。文部科学省学校法人運営調査委員、日本私立大学協会常務理事、日本高等教育評価機構理事などを務める。

郷土の歴史、文化、芸術に触れ、地域の力を伸ばして欲しい。―伊東香織

いとう・かおり●1990年東京大学法学部卒業、郵政省(現総務省)入省。93年米国ハーバード大学ロースクール修士課程修了。95年栃木県日光郵便局長。98年総理府(現内閣府)国際平和協力本部事務局参事官補佐、2001年総務省インターネット戦略企画室長補佐。03年、総務省から倉敷市へ出向し、総務局長、収入役。07年総務省多国間経済室長を経て退官。08年倉敷市長に就任し、現在4期目。全国市長会副会長も務める。

伊東 倉敷美観地区は、江戸期以来の建造物群の中に、日本初の私立西洋近代美術館「大原美術館」など洋風建築が溶け合い、独自の町並みを形成しています。こうした町並みを保存する重要性に早くから地域の人々が着目し、住民・行政一体となって取り組んできました。1968年(昭和43年)には、全国に先駆けて町並み保存の条例「倉敷市伝統美観保存条例」を制定しました。現在、国の伝統的建造物群保存地区となっている倉敷美観地区では、電線類の地中化や路面の美装化、町家・古民家の再生、夜間景観照明の実施など、歴史的な町並みの保存とそれに調和する魅力あるまちづくりに、地域の方々とともに取り組んでいます。

水戸 近年では、新型コロナウイルス感染症の流行や、18年の豪雨災害など未曾有の事態においても伊東市長は手腕を発揮されています。市長が大切にされている心構えや行動、理念はどういったものでしょうか?

伊東 18年の豪雨災害時には、貴学から温かいご支援を賜りましたことを、心より御礼申し上げます。今年で災害から3年となりましたが、被災された方々のたゆまぬ努力と、全国の多くの皆様のご支援により、被害の大きかった真備地区の復興は着実に進んでいます。私は、困難な事態に直面した際には「現場」を重要視しています。最前線で災害対応を行う職員や、被災者の方々から直接お話を聞き、今、何が最も求められているかを確認しながら、市の方針を決定しています。

水戸 常に市民に視線を合わせて、公務に励んでおられるのですね。さて、本学は来年10月に創立145周年を迎えます。本学の教育研究活動や人材育成に期待することがあれば、お聞かせいただけますか。

伊東 貴学と倉敷市は、16年に学芸・文化観光等の分野における連携協定を締結しました。貴学からは、中洲先生の業績を顕彰する倉敷市の事業や、戦時中、倉敷市真備町に疎開していた作家・横溝正史を取り上げた観光事業等において、数多くのご協力をいただいています。地方創生への歩みを進める本市に、このようなご支援をいただけることは大変な励みとなります。今後も、貴学で中洲先生の理念を学ぶ学生の皆様が、フィールドワークなどを通じて地域に出て学びを深め、故郷を大切に思える社会人となるよう導いていただければ、また、その方々が倉敷市にも目を向けていただくことになれば、とても嬉しく思います。

郷土の歴史、文化、芸術に触れ、地域の力を伸ばして欲しい。―伊東香織

伝統的建造物群保存地区の「倉敷美観地区」。地区内の倉敷物語館(市施設)には三島中洲先生の資料を常設展示している。

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広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。