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理事長対談 vol.23

理事長対談 vol.23

学校と社会の違いは、必ずしも理論通りに進まないこと。そこを生き抜く人間力がほしい。

水戸 御社の人材採用では、どのような点に主眼をおいていますか?

篠辺 一部の大学には航空経済を学べる学部があり、以前はそこの学生をよく採用していました。しかし、近年はあまり専門性にこだわらなくなってきています。それよりも人格形成ができていて、哲学や歴史、芸術などの一般教養が備わっていることを期待しています。航空業界に必要な専門性は、入社後いくらでも身につけられますが、一般教養についてはそうした機会が意外とないからです。

水戸 いわゆる人間力を重視されているのですね。

篠辺 その通りです。当社の従業員の多くは、お客様と直に接する業務ですから、コミュニケーションや礼儀作法が非常に大切です。御礼の手紙の書き方などは社内で教えることはありませんし、人間的な魅力がどれだけあるかで仕事の結果は変わってきます。その辺りは、学生時代の先輩後輩関係や、先生との関わりで育まれると思います。

水戸 篠辺顧問ご自身の経験では、どういった場面で人間力の大切さを感じましたか?

篠辺 私は長年、整備部門に配属されており、ボーイング(アメリカの航空機メーカー)の日本駐在エンジニアと一緒に仕事をしていました。彼らは、私が相談するといつも快く応じてくれました。部署を異動するとき、なぜそうしてくれるのかを聞いてみると「自分たちが困っている時にあなたはいつも協力してくれた」と言うのです。その頃、私は英語が得意ではなく、身振り手振りや筆談を交えて彼らとコミュニケーションをとっていて、確かに頼まれ事はよく引き受けていました。ボーイングの駐在員からすると「この人は話になる」と思ったようです。

理事長対談 vol.23「水戸英則×篠辺修」

理事長対談 vol.23「水戸英則×篠辺修」

水戸 普段からの態度や行動に現れる人間性によって、周りから評価されるのですね。今のお話を伺って、相手の立場を理解した上で自己表現する「アサーション」も大切だと感じました。

篠辺 当社でもアサーションは取り入れています。航空業界では、機長に副操縦士が意見を言いにくい風潮がありましたが、飛行機の安全性に関することは職域や職責を超えて確認・指摘し合うことをルールにしました。一般に、コミュニケーションは発信力が大事と言われますが、むしろ「聞く力」が大切だと私は思っています。相手の言うことを正確に理解しなくては、自分の意見を表明できないからです。そういう意味では、大学教育はもっと先生と生徒が議論する部分があっていいのではないでしょうか。議論に勝つことが目的ではなく、コミュニケーションのトレーニングになるからです。

水戸 まったく同感です。昨今、アクティブラーニングといって、質疑応答形式の授業だったり、外に出てフィールドワークをする教育が注目されています。特に企業からそうしたニーズが出ています。

篠辺 私が整備本部長だった時、新入社員に2年間言い続けたことがあります。それは「遅刻をするな」「挨拶をしろ」「嘘をつくな」の3つだけです。人として基本的なことばかりですが、飛行機の整備は人の命を預かる仕事ですから、嘘は絶対に許されません。ですが、世の中には、友人同士の付き合いなどでついていいものもあり、つまり建前と本音があります。それを理解し、自分の中で昇華させるには多様な経験が必要で、その入り口が大学教育だと思います。

水戸 本学の前身は漢学塾だったことから、『論語』を教育のベースにしています。附属高校の校訓は「仁愛・正義・誠実・弘毅」で、相手の立場に立った行動、正しくあること、辛抱強く努力することを教えています。

篠辺 まさしく社会に出てから求められる点です。学校と違って社会は必ずしも理論通りに物事が進みませんし、誠実でない人もいます。それでも、自分が誠実であろうとすることは非常に大切です。誠実な人は、仮に上手くいかないことがあっても、それを糧にして、理論通りではない社会を生き抜くことができます。

理事長対談 vol.23「水戸英則×篠辺修」

しのべ・おさむ(写真右)1952年、東京都生まれ。76年早稲田大学理工学部卒業、全日本空輸に入社し、整備本部に配属。2003年整備本部技術部長、04年執行役員・営業推進本部副本部長、08年取締役執行役員・整備本部長、11年専務取締役執行役員、12年代表取締役副社長、13年代表取締役社長を経て17年から取締役副会長。19年から現職。

みと・ひでのり(写真左)1969年九州大学経済学部卒業。日本銀行入行、フランス政府留学、青森支店長、参事考査役などを歴任。2004年、二松学舎に入り、11年理事長に就任。文部科学省学校法人運営調査委員、日本私立大学協会常務理事、日本高等教育評価機構理事など。

學vol.54

広報誌 『學』アジアと世界の架け橋へ。