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平成30年度 二松学舎大学卒業式 告辞

 千鳥ヶ淵の桜の蕾はまだ固いようですが、柔らかな日差しの中に春の訪れが感じられるようになりました。このような春の日に卒業を迎えられた皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、大学院を修了される皆さん、誠におめでとうございます。そして今日の晴れの日を迎えられた保護者の皆さまには、心よりお慶び申し上げます。

 これからさらに進学あるいは留学される方を除けば、皆さんの多くが、小学校入学から始まった16年間に及ぶ「学校」という場での教育を終えることになります。これまで皆さんが受けて来られた教育の最終的な目的の一つは、皆さんの自立を可能にするということだと思います。これまで皆さんは様々な点で守られてきたと言っても良いでしょう。しかし、これからは違います。学生生活を終え、社会人となられる皆さんは、社会の中で自らの責任を、倫理観を持って果たしていただきたいと思います。そして大学で教育を受けた者の責任として、学んだことをどのように社会に還元していくのかということを、是非考えていただきたい。また大学院を修了された皆さんには、研究者として学問の発展に寄与していただきたいと思います。

 ここで改めて本学の建学の理念に触れてみましょう。学祖三島中洲先生は、142年前に本学の前身である漢学塾二松學舍を開いた時に、「己ヲ修メ人ヲ治メ一世ニ有用ナル人物ヲ養成スル」という理念を掲げられました。今の言葉に直すと、「自ら考え行動できる能力を鍛え、社会のために貢献できる人物を養成する」となります。この理念に則って、本学の教育は展開されています。さらに中洲先生が掲げた今一つの建学の理念は、「東洋の精神による人格の陶冶」です。大学4年間という短い期間で優れた人間性の育成を行うということではなく、本学で人格の陶冶、つまり自己の人格を磨くことの大切さを学び、これからの長い人生を通じて人としてさらに成長してほしい、ということを意味しているのだと私は考えています。

 これから皆さんは社会人となります。未来は常に未知数です。未来に続く道に案内図はないでしょう。自らの人生を、自身の力で切り拓いていただきたいと思います。真っすぐな道でも曲がりくねった道でも、歩き続けることは迷いの連続かもしれません。厳しい現実に逃げ出したくなることもあるでしょう。自分に向かってくる風と闘うことも、風に身を任せることも選択肢としてあるでしょう。選択肢は一つではありません。そして長い人生の中で、時には立ち止まって自分を振り返ってみる、客観的に自分を見つめる時間を持ってください。

 卒業して社会人となった時に、必ずしも大学で学んだ専門知識を生かすことができないかもしれません。しかし、身に付けた考え方や学びの技術を生かすことで様々な分野で活躍することが可能です。例えば、皆さんの多くは組織で働くことになるでしょう。組織の一員となると、学生時代のような親しい友人とだけの関係では済まなくなります。その組織の中で個人を繋ぐものはコミュニケーションです。コミュニケーション力の土台は言葉の力です。ここで本学が大切にしてきた、自分の考えを他者に伝える表現力としての「国語力」が、役に立つと思っています。また、人は困難に直面した時に、そして自らが決断する時に成長すると言われています。これからの人生の中で様々な問題に直面した時に、自らの力で解決方法を見出すことが求められます。そこで問われてくるのは、自ら考える力、主体的に取り組む力、そして最後までやり抜く力です。皆さんがこうした力の基礎を在学中に身につけてくださったと確信しています。

 さて皆さん、皆さんを取り巻く社会は、以前と比較にならないほどの速さで変化をしています。インターネットで情報が瞬時に広がり、急速なスピードで変化する現代社会。また、現代は人工知能AIやロボット技術を軸にした第4次産業革命の時代とも言われています。人工知能AIの開発は飛躍的に進み、新たな技術によってAIは膨大なデータを解析し、自ら学習を深められるようになりました。「人の知を超える『超知性』の可能性が見えてきた」と危惧する科学者もいます。今後AIが進化すれば、現在ある仕事の半分が消える可能性があるとも言われています。このように変化の激しい時代を皆さんは生きていくのです。皆さんは、社会に出て10年、20年、30年と仕事をしていくために自分にとって何が必要かということを考えたことはあるでしょうか。卒業は大学での学業の終了を意味しますが、決して学びの終了ではありません。これからの人生において、皆さんは絶え間なく新しい知識を学んでいくことが求められています。日本では人生100年時代に入ったと言われています。皆さんは人生の様々なステージで学びなおし、働き方を変えていくことになるかと思います。将来の変化を見据えた継続的なステップアップ、自己変革と多様な視点を取り入れる柔軟さが求められています。常に知的好奇心を持ち続け、仕事を離れて家庭に入っても、生涯を通じて学んでいただきたいと思います。学ぶことに終わりはありません。

 また、世界ではグローバル化が進み、人やモノ、情報の移動が大変活発になっています。今後、グローバル化はさらに進展していくでしょう。 昨年末の出入国管理法の改正によって、日本の社会は外国人労働者を今まで以上に受け入れることになります。グローバル化の中にあって、英語をはじめとした外国語の習得は重要ですが、それよりも大切なことは、文化の多様性を受け入れることのできる柔軟で寛容な心を持つことだと思います。世界には様々な国があり、様々な言語や文化、宗教、習慣を持った人々が暮らしていることを理解し、尊重し、文化の異なる多様な人々と共生することが大事であることを認識していただきたいと思います。

 新たな道に踏み出される皆さん、様々な可能性を持っておられる皆さんの前途が希望に満ちたものであること、そして皆さんが正直に誠実に生き、豊かな人生を送られることを祈念して、私の告辞と致します。本日は誠におめでとうございます。

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