
自由民権運動期におけるヨーロッパ思想と儒学 ――接触、交流、翻訳――(日本漢学研究叢刊 5)
編者:エディ・デュフルモン 町泉寿郎
発行年月日:2026年3月25日
A5判 310頁
『自由民権運動期におけるヨーロッパ思想と儒学』紹介
本書は、近代日本における漢学思想の歴史を、漢学塾以来の伝統を継承してきた二松学舎大学と、フランスの日本思想史研究者の協力のもとでexplorer(探求)する新しいステップを示すものと言える。
今回、ヨーロッパと日本の間に行われた思想的流行を具体的に計測するに当たって、まず「概念」に着目した。基本的に漢学・儒教思想によって育った明治知識人たちが、ヨーロッパの政治哲学を発見し、更にその概念を翻訳するにいたったが、その翻訳は漢字語であったために、日本国内で使用されるだけにとどまらず、広く東アジア圏にも浸透した。その浸透については別に検討する必要があるけれども、本書において、民権運動期を中心に明治時代を取りあげる理由はここにある。
また、思想的流行を分析するには、最近フランスやヨーロッパで発展してきた「転移」(Transfert culturel)という歴史学の研究方法が有効と考えられることから、本書でも様々な事例を取りあげている。「転移」史学から見れば、思想的流行において一番問題になるのは翻訳そのものであるが、ある概念がどのように翻訳されたかということをめぐって、翻訳者自身の諸条件からはじまり、翻訳のコンテクストをめぐる諸要素を検討することまでが研究対象となるのである。明治時代前期までに教育を受けた知識人たちにとって、漢学教育からの影響が多かれ少なかれ認められるにせよ、皆が漢学に対して同様の態度を示したわけではないし、各自の政治的あるいは宗教的目的に応じたかたちで、さまざまな「転移」のあり方が見いだされるに違いないはずだからである。
目次
- まえがき――日欧間の思想的流行を計測する試み――(エディ・デュフルモン/町 泉寿郎)
- 第一部 ヨーロッパとの出会い、漢学の遺産――明六社同人たち――
- 『共和政治』刊行に至るまでの諸事情――中村敬宇の「政体」理解をめぐる一考察――李 セボン
- 政治思想のナショナリティを考える――国境を越える政治思想の研究――柳 愛林
- 学者・士族・階級――福沢諭吉とその周辺――藤川 剛司
- 第二部 儒教の牧民思想とヨーロッパの国家構想――政府に関わった人物――
- 司法省における捕亡事務確立の挫折と法の支配――大教宣布運動と司法権独立のゆくえ――大庭 裕介
- 井上毅の宗教政策論と《culte》概念松田宏一郎
- 元田永孚のアメリカ ――ジョージ・ワシントンと「共和政治」への眼差し――田中 豊
- 三島中洲の西洋法学受容とその特質町 泉寿郎
- 第三部 ヨーロッパ哲学と漢学の相俟った自由――明治の自由主義者たち――
- 中江兆民とフランスの社会主義の導入
――Auguste Vermorel『Le Parti socialiste』とその翻訳『社会論』――エディ・デュフルモン - 日日新聞記者時代の末松謙澄――新聞記事に活かされた漢学の素養――胡 加貝
- 日本政治学の「the founding father」を求めて濱野 靖一郎
- 内村鑑三の民主主義観とその思想的背景麻生 将
- 執筆者紹介
