大西巨人 文学と革命 二松学舎大学学術叢書一覧

『大西巨人 文学と革命』

大西巨人 文学と革命
編者:山口直孝( 二松学舎大学 文学部 )
出版社:翰林書房 2018年3月20日
A5版 455頁 3,800円+税
ISBN:978-4-87737-426-6

『大西巨人 文学と革命』紹介

 『大西巨人――文学と革命』は、二松学舎大学東アジア学術総合研究所共同研究プロジェクト「現代文学芸術運動の基礎的研究――大西巨人を中心に」(石橋正孝・齋藤秀昭・坂堅太・田代ゆき・田中正樹・橋本あゆみ・山口直孝)の活動をまとめた論集である。共同研究では、二〇一四年三月に亡くなった大西巨人の蔵書を、夫人の大西美智子氏、長男の大西赤人氏の了解の下で二松学舎大学柏キャンパスに移送し、調査を続けてきた。二〇一五年からは成果発信の場として公開ワークショップ「大西巨人の現在」を毎年開催した。蔵書調査はなお進行中であるが、一つの中仕切りとして形にしておくことを考え、編んだのが本書である。

 本書は、四部から成る。Ⅰは、公開ワークショップの講演の再録。光文社で巨人の担当編集者だった浜井武氏、舞台版『神聖喜劇』の脚本を手がけた川光俊哉氏、日本古代文学研究者の多田一臣氏、批評家の絓秀実氏の四氏がそれぞれの立場から巨人を、また『神聖喜劇』を語っている。Ⅱは、蔵書調査の経緯と主要蔵書の紹介。『縮刷緑雨全集』など重要と思われる四十五点を選び、書き込みや傍線などの痕跡を画像で示しながら、巨人の関心のありかを説明した。Ⅲは、共同研究のメンバーによる考察。ドイツ思想史の竹峰義和氏にも加わってもらい、巨人文芸における諸文献の受容を踏まえて同時代的および今日的意義を論じている。Ⅳは、齋藤秀昭作成の大西巨人書誌。単行本について、発行部数を含めた諸情報を網羅した仕事である。

 巨人が自宅に置いていた書籍類は、一万点を超える。一冊ずつ全ページをめくり、痕跡があれば記録していく作業は、忍耐力を要したが、メンバーの強い意志によって着実に進むことができた。「政治と文学」のあるべき姿を模索し、現代文学に稀有な達成を遺した大西巨人を研究する上で、本書が一つの礎になればと思う。

(二松学舎大学文学部教授 山口直孝)

目次

  1. Ⅰ 大西巨人の現在──さまざまな眺め
    • 一編集者から見た大西巨人──『神聖喜劇』と光文社の関わり 浜井 武
    • 『神聖喜劇』を上演するために 川光俊哉
    • 『神聖喜劇』と『万葉集』 多田一臣
    • 大西巨人の「転向」 絓 秀実
  2. Ⅱ 革命的知性の小宇宙(ミクロコスモス)──大西巨人蔵書の世界
    • 大西巨人蔵書──調査の経過と概要
    • 大西巨人主要蔵書解題
    • 阿部和正・石橋正孝・伊豆原潤星・ 坂 堅太・杉山雄大・竹峰義和・ 野口勝輝・橋本あゆみ・山口直孝
  3. Ⅲ 享受と創造──大西巨人をめぐる考察
    • 同時代の小説を「読む」大西巨人 石橋正孝
    • 大衆社会下における芸術の大衆化をめぐって──記録芸術の会における芸術/資本/政治の関係について 坂 堅太
    • 大西巨人と漢詩文──『神聖喜劇』を題材に 田中正樹
    • 蔵書にみる大西巨人の道元受容 ──『神聖喜劇』における引用の効果 橋本あゆみ
    • 習俗的であることの悦楽 ──『神聖喜劇』における『トニオ・クレーゲル』 竹峰義和
    • 揚棄される個人──大西巨人『深淵』の様式 山口直孝
    • もう一つの「俗情との結託」批判 ──いま「プロレタリアート」の意味を確認する 田代ゆき
  4. Ⅳ 大西巨人書誌 齋藤秀昭
    • 公開ワークショップ「大西巨人の現在」の記録