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第3回 外国為替の基礎  国際政治経済学部 准教授 飯田 幸裕

 私たちが海外旅行に行く場合、例えばアメリカに旅行をするときにはドルが、ヨーロッパに旅行するときにはユーロが必要になります。また、何か商売をしており、海外との決済を行う場合には、円と他国通貨との交換が必要になります。自国通貨(日本では円)と外国通貨との取引が行われる場のことを「外国為替市場」といいます。

「市場」は、取引が行われる場のことですから、ここで気になるのは「為替」そして「外国為替」とは何かということになります。最初に「為替」とは何かを考えてみましょう。

「為替」とは、遠隔地との取引を円滑に行うための決済システムです。例えば、江戸時代の両替商のシステムは為替を用いることで、遠いところにいる商人どうしの決済を上手にとりまとめています。図1を見てください。江戸のA店は大坂のD店から呉服を購入し500両を支払います。また、大坂のE店は江戸のB店からお米を購入し1200両を支払います。そして江戸のC店は大坂のF店から魚介類を購入し300両を支払います。一見、何も問題がないように思えますが、これらの1つ1つの取引が毎月あるとすれば、代金の支払い・受取りを毎回現金で行うのは大変なことです。

 そこで、これらの取引をとりまとめる両替商が登場しました。両替商がどのような役割を果たすのか図2を見ながら説明していきましょう。江戸から大坂への支払いは800両であり、また大坂から江戸への支払いは1200両です。そうすると、今回の取引がこれだけであるとすれば、「大坂の両替商が江戸の両替商に400両(1200両-800両)支払う」ということで、江戸と大坂の決済は完了します。あとは、江戸の両替商がA店から500両を、C店から300両を受取り、B店に1200両を支払う、そして、大坂の両替商はD店に500両を、F店に300両を支払い、E店から1200両を受け取ればよいのです。もちろん、現金が江戸-大坂間を移動したわけではなく、お金のやりとりの指示には「手形」という信用手段が用いられました。

 両替商は多くの商人と取引を行っていますので、毎日、江戸から大坂へ、あるいは大坂から江戸への支払いが発生します。そこで、両替商は、これらの取引を半年や1年といったある程度の期間にまとめて、両方の支払いを相殺した差額を決済していたのです。これが為替のシステムになります。

それでは、次に「外国為替」のシステムを見てみましょう。外国為替は、異なる通貨を用いる国との取引を円滑に行うための決済システムということになります。例えば、図3のように、日本とアメリカとの間で、日本のJ企業がアメリカのG企業に自動車10万ドル相当を輸出し、アメリカのH企業が日本のI企業に小麦10万ドル分を輸出するとします。

ここで日本のI企業はアメリカのH企業に、アメリカのG企業は日本のJ企業に直接、10万ドルを支払うべきでしょうか。よく見ると金額は同じですから、日本のI企業がJ企業に、アメリカのG企業がH企業に10万ドルを支払うと、すべての決済が完了しています。遠い場所どうしのやりとりを少なくできるのが外国為替(為替)のシステムといえるのです。この場合にはちょうど金額が同じなので取引額は相殺されていますが、トータルの金額が同じでない場合には、日本とアメリカとの間でその差額が決済されます。その担当は信用のある企業である必要があります。

 現在では、銀行などがこれらの為替業務を担っています。○の部分に銀行が入るとすれば、図2で説明した両替商の役割と同じであることがわかります。この場合も現金が日米間を移動することはなく、為替手形や送金小切手などの信用手段が用いられます。

ちなみに、日本の各銀行は、日本の中央銀行である日本銀行に当座預金口座を持ち、その口座間で決済を行っています。これを全銀システムといいますが、最初に説明したように、多くの取引をとりまとめて、その差額を決済するシステムなのです。

「取引」というのは、自分ではできないこと、あるいは自分で行おうとするとコストが高くつくことがあるからこそ成立します。「為替」「外国為替」も、電気や水道などの公共料金を支払うとき、あるいは通信販売で外国の商品を購入したときなど、支払う金額を自分が直接持っていくというわずらわしさを解消してくれるとても便利なアイテムとして活躍しているのです。

2010年4月15日

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