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第1回 金融・経済危機の後に:問われるのは人間  国際政治経済学部 教授 田端 克至

効率性を超える新しい発想

 世界をリードしてきた海外の有名経営大学院が、懺悔しているという。我々は、収益性、効率性を重視する考え方を強調しすぎたのかもしれない。1990年以降、企業経営にコンピュータを使う科学的な経営手法が次々に取り入れられた。そのコンセプトは、ほとんど彼らが生みだしてきたと言ってよい。

 野球には必勝パターンがある。例えば、抑えの投手が登場し、ビシッとしめる。これが必勝パターンだ。将棋や囲碁にも定石がある。ビジネスの世界も、必ず儲かる定石がある。先端の金融経済学や経営学は、その定石を次々に創り出してきた。サブプライムローンという、よくわからない金融商品も、効率性・収益性を追求した究極の商品の一つであった。

 こうした定石である効率性を最大限求める経営は、もはや通用しない。今回の金融・経済危機から明らかになったことである。「原点に戻って、発想を転換し、新しい戦略を考えよう。」こんな雰囲気が、世界に生まれつつある。復活には、効率性・収益性を超える新しい発想が求められる。それには、2~3年の時間は必要であろうが、できるはずだ。

 大学は、これに知のレベルで貢献できるのか。例えば、私は経済の専門家であるが、私の研究の真価を問われているのではと思っている。

世界経済危機に日本はどう行動するのか

 新しい発想、創造への胎動はすでに始まっている。株価の値下がりは、企業価値を下げてしまうが、買収や合併には都合がよい。今まで株価が高く手を出せなかつた優良企業や施設を買いたたいて買収しようという動きも出ている。世界はしたたかなのである。

 特に、今回の世界経済危機の中で、改めてアジアの存在が注目されている。アジアは、今回の経済危機でも、欧米とは異なる経済の動きをしているからだ。図は、先進国とアジアを含む新興国の経済成長率を示している。先進国の経済成長の大きな流れを示す線(赤線)は、低下傾向を示している。それに対して、アジアなど新興国の成長トレンド(青線)は上昇を続けているのである。90年以降、アジアは様々な試練を経てきたはずだが、成長のエネルギーは失われることはなかった。日本は、この事実を踏まえた上で、自分達の未来を創造すべきである。

 ところで、物事を合理的に判断し、収益性に徹することに、アジア人は欧米系の人に比べて苦手である。しかし一方で、アジア人にも得意な気質がある。
例えば、日本人は、職人気質を大切にし、きめ細かな感情の機微を理解できる。昔から、日本人は第五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に次ぐ、第六感なるものを大切にしてきた。この六感なるものが本当に存在するか否かは別にして、精神を集中し物事に必死でくらいつく時、本来備わっていないような力を発揮できることがある。日本人は、この力の重要性を直観し、昔から、そのために努力する人に畏敬の念を感じてきた。

 私は人間の持つあらゆる力を結集した末に発揮されるものを、「総合的な人間力」とよんで、学生に聞かせることがある。目先の利益や合理性にとらわれることなく、ある道を歩んでいく覚悟をもって独自の人間力を発揮すれば、欧米系の企業が思いつかないような新しい発想を創造することができるかもしれない。先行きの不安を口にするようなことをやめ、今こそ、日本の総合的な人間力を発揮することが求められている。

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