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平成25年度 二松學舍大学入学式 渡辺和則学長 式辞

本日、文学部と国際政治経済学部に入学された学部生の皆さん、そして大学院文学研究科と大学院国際政治経済学研究科に入学された大学院生の皆さん、入学おめでとうございます。ご列席の来賓の皆様、本学の諸先生、職員の方々とともに、皆さんの入学を心からお喜びいたします。また、ご臨席いただきましたご家族の皆さまにも心よりお祝い申し上げます。
二松學舍大学は明治10年10月10日に漢学者の学祖三島中洲先生によって創設された「漢学塾二松學舍」に始まります。中洲先生は、明治に入って西洋の科学技術や法行政の諸制度などを短兵急に輸入摂取することに奔走する当時の状況を憂え、学問は流行や先端的なことばかりを追いかけてやっていると行き詰ってしまうため、日本の新しい建設は、古きを温めて新しきを知ることでなければならないとして、学問はその基本を自己の伝統である漢学に求め、現在の九段校舎のある地に、「漢学塾二松學舍」を開き、多くの若者を集め、朝に夕に親しく接して教育されました。
明治後半においては、政治、経済、学芸などの各分野に有能な人物を送り、当時は福沢諭吉の慶応義塾、中村敬宇の同人社とともに、都下三大塾といわれた輝かしい歴史を持っています。
二松學舍大学は私立大学です。私立大学が国公立大学と最も違う点は、建学の精神をもち、それを実現することを教育研究の最大の目的としているところにあります。中洲先生は建塾の精神として「己ヲ修メ人ヲ治メ一世ニ有用ナル人物ヲ養成スル」を掲げ、若者の教育に努めました。これは二松學舍大学の建学の精神として今日に受け継がれています。
これは文字通りに解釈すれば、次のように言えます。人は一世に有用なる人物となることを目指さなければならない、がしかしそのためには、人を治める人物でなければならず、むしろそのためには、己を修める人物でなければならない。
さらにこれは、次のように言い換えられます。
学問をする場合、その目的は、日本、アジア、そして世界の発展のために貢献することである、がしかしそのためには、周囲の人々の立場をよく考えなければならず、むしろそのためには、まずは自己の人格を磨くこと、すなわち人格の陶冶という視点が大事である。
この最後の部分の「まずは自己の人格を磨くこと、すなわち人格の陶冶という視点が大事である」というところが肝心です。授業で一所懸命に発表したのに全然褒めてもらえなかった、もう少し丁寧に教えてくれてもよいのではないか、大学はもっと親切に対応してくれてもよいのではないか、など。様々な不満が出るのは、学問を他人に求めているからであり、自分のためではなく他人のために学問をやっているからです。「他人がいかに自分を評価してくれるか」を考えてする学問は自分のためにする学問ではなく、他人のためにする学問です。
そうではなく、文学なら文学について本当に研究をし、それによって自分の情操を養い、さらに周りの人たちを楽しませようとするのが、「自分のためにする学問」というものです。皆さんは、これから、文学、書道、外国語、政治・経済・法律などの学問を学ぶわけですが、他人のためにする学問ではなく、自分のためにする学問をしてください。自分のためにする学問によってこそ自己の人格が磨かれ、人格が陶冶されるのです。
皆さんは「己ヲ修メ人ヲ治メ一世ニ有用ナル人物ヲ養成スル」を最初に聞いたきには、何と古めかしい言葉かと、思ったに違いありません。がしかし、これまでの説明を聞き、その言葉が崇高で、普遍的な内容が含まれていることが分かったと思います。二松學舍大学は自分のために学問研究をするところです。学問研究によって人格を磨くということを大事にしてきた大学です。皆さんは就職するために通過する一つのステップとして二松學舍大学を考えているならば、その考え方は今ここで捨てていただかねばなりません。
皆さんは学問研究をする決心で、二松學舍大学に入学して来たのですから、自ら進んで、自らのために学問研究を求めてゆかねばなりません。その覚悟をこの入学式においてはっきりと持ち、これを四年間持続させていただきたいと思います。
それならば、今後どうすればよいのか、というのが皆さんの疑問であろうと思います。それについて、私は三つのことを申し上げます。
第一は、将来何になろうかといって、いろいろ今から空想を思い抱くことは無用であること。むしろそれよりも、一日一日をいかに善く過ごすかを考えるべきです。日々の為すべきことを着実に克服していくことが大事です。
毎日、為すべきことを為すというのは、ただ講義やゼミナールでしっかり勉強して、良い成績を上げることでは決してありません。とにかくそれはひとり大学の教室での勉強ばかりではありません。文学や哲学などの分野における精神の歴史を形成して来たような偉大な人々の書物で、古典とよばれる書物を読むこと。部活動やサークル活動などの授業外活動に積極的に参加すること。また大学の外にあっては、家庭において親を助けること、地域においてはボランティア活動に進んで参加すること。その他にも、皆さんの若き学生時代の日々、その時、その日に為すべきことはいくらでもあるはずです。
そのような毎日の小さな、そして地味な努力の積み上げが、皆さんの人間としての成長、人格の形成につながります。将来何になろうか、何をしようか、というキャリアビジョンは、そうした努力の延長線上にきっと見えてくるはずです。
第二は、大学では、自ら学び、自ら研究することを心掛けること。大学での講義や演習は、教えられたことを記憶反復するがためのものではなく、それを基礎として、教室で習う範囲を超えて、さらにその先へと、自主的にそして積極的に勉強して行かんがためのものです。学問研究は基礎の修得と正しい順序を守って学ぶことが大事です。しかしそれには、誠意と根気が必要であり、それこそは学問研究のこつです。
第三は、大学生として責任ある行動をとること。本学は学生の自制心と規律を重んじています。授業への遅刻欠席や課題提出の状況は皆さんの自制心に因ります。本学では全館禁煙となっていますが、それが順守されるかどうかは皆さんの規律に因ります。教育機関としての大学の発展にとって規律と自制心は重要な要因ですから、それを揺るがす行為に対して本学は毅然として対応します。皆さんの責任ある行動を期待します。
本年度から全学生が九段校舎で学びます。それに対応するため、文学部と国際政治経済学部ともに新しくカリキュラムが変わりました。皆さんは、1年次に入門科目を学び、2年次には基礎的内容を学びます。そして、3年次には応用的なものを学び、4年次には卒業研究・ゼミ論に取り組みます。そのように、入門から基礎、応用へ、易しい内容から難しい内容へと段階を経て勉強ができるようになっています。
二松學舍大学には、学問的鍛錬を積んだ優秀な先生が大勢います。先生方は皆さんに手取り足取り親切に教えてはくれません。しかし皆さんから積極的に先生に語りかければ、親切にいろいろなことを教えてくれます。先生方を信頼し、学問上の相談など、なんでもよろしいから、皆さんの方から積極的に先生に接するようにしてください。学問をしようとする人に対して先生方は真剣に対応してくれます。
二松學舍大学の学問研究は求める者にはあまねく開かれています。しかし、人類の英知の結晶である学問が、ぼんやりと聞いていて理解できるものでは到底ありません。皆さんは、主体的、自主的な学修態度が大事だということも覚えておいてください。
皆さんは環境の変化にとまどい、学習や生活についての悩みに陥ることがあるかもしれません。そういうことを防ぐため、両学部では「基礎ゼミナール」という科目を1年次に置いています。学習全般に関連することについては、「学生支援課」が相談に応じてくれます。教職の学習については「教職支援センター」の先生に相談してください。公務員試験に挑戦したい人は「キャリアセンター」で相談してください。しかし、どこに相談すればよいか迷ったときには、まずは1号館の3階の事務所に来てください。どんなことでも結構ですから、遠慮しないで相談をしてください。
ここで大学院に入学された方に申し上げます。長い時間をかければ、だれでも一定の研究成果を上げられます。しかし、大学院では、一定の限られた期間内に、ある程度の水準の研究成果が上げられるように研究に集中することが重要です。ただし、決して超一級の研究成果が求められているわけではありません。
マックス・ウェーバーは『職業としての学問』の中で、学問的に価値のある達成というものは、専門の中に閉じこもることによってのみ可能であり、自分の全心を打ち込んで、たとえばある写本のある箇所の正しい解釈を得ることに夢中になるといったようなことのできない人は、まず学問には縁遠い人々である、と断定しています。大学院生の皆さんは、ウェーバーに「学問に縁遠い人」だと言われないように、研究に打ち込んでください。
最後になりますが、これから始まる二松學舍大学での学生生活において、いま皆さんが抱いている将来の夢と希望を、単なる夢と希望だけに終わらせないで、それを少しでも、皆さん自身の生活の中で実現して行かなければなりません。皆さんの毎日の努力がそのための準備になります。卒業後、何年かが過ぎ、あなたの愛する人や自分の子どもに、学生時代に私はこんなふうに勉強したのだと、あなたの小さな歴史を大いに語れるような学生生活を送って欲しいと思います。今後は健康に気をつけて、二松學舍大学での実りある学生生活を送られることを願い、私の式辞とします。