第III部

葉口 英子 氏

葉口 英子 氏静岡産業大学情報学部准教授。専門は大衆文化論・メディア論・広告論・ポピュラー音楽研究。編著書として『知のリテラシー文化』(ナカニシヤ出版、2007年)。共著に『メディア時代の広告と音楽』(新曜社、2005年)、『広告の文化論』(日経広告研究所、2006年)、『拡散するサブカルチャー―個室化する欲望と癒しの進行形』(青弓社、2009年)、『越境的日本流行文化』(山東人民出版社、2010年)他。最近は「アジアにおける日本の大衆文化の受容」をテーマに中国・韓国・香港の研究者らと共同研究をおこなっている。

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シンポジウム第 III 部の様子(一部)

ゲーム空間の曹操像 今の若い人たちにとって「三国志」の入口になるものは圧倒的にゲームです。自分はもともとよその国の文化として育まれてきたものが、日本国内において、いろんなメディアを通して、我々の中に根づいていくプロセスに興味を持っています。今日はそのゲーム版ということで、「三国志」を取り上げてみました。

今日は曹操だけに限定した話ではありません。若者文化の一大ジャンルであるゲームの中で「三国志」がどのように扱われているか、一般受容者が「三国志」や曹操に対してどのようなイメージを抱いているかについてお話しします。

自分が抱いた問題点

私は今回のテーマに関して、次のような問題点を抱きました。

1. 現在の日本における「三国志」、“「三国志」なるもの”はどのように受容されているのか?
2. ゲームというメディアで流用される「三国志」の魅力と性質とは一体どのようなものなのか?
3. 「三国志」を題材としたネットゲームにおいてどのようなコミュニティが創出され、いかなるコミュニケーションが成立しているのか?
4. 現在の日本において「三国志」と出会う文化状況、メディア環境とはいかなるものか?
5. 「三国志」が世代・性別を超え、日本において長く受容され続け、高い人気を得ているのはなぜか?

これらの問題点に基づいて、今日は、「三国志」に関するアンケート調査、「三国志」を題材としたゲームの変遷、「三国志」を題材にしたネットゲームの事例、「三国志」に関連したメディアミックスの事例といった内容を報告します。

「三国志」に関するアンケート

静岡産業大学情報学部の学生155名を対象に、「三国志」や「三国志」に関連するゲームについての簡単なアンケート調査を実施しました。年齢は18〜28歳、男性112名、女性43名で、この中には8名の中国人留学生も含まれます。

1. 「三国志」を知っていますか?
知っている 113 知らない 42(うち女性40名)
2. 「三国志」を知った年齢(1989〜91年生まれ)
小学生以下 3% 小学校低学年 6% 小学校高学年 34%
中学校 41% 高校 12% 高校以上 4%

中学校や小学校高学年の時に知った人が多く、かなり若い年齢で「三国志」と出会っています。小学生以下、小学校低学年と答えたのは中国人留学生で、学校の授業などで知ったそうです。

3. 「三国志」を知ったきっかけ

マンガや本、友人からなどという答えもありますが、圧倒的にゲームですね(約60%)。

4. 「三国志」に関連したコンテンツで知っているもの(ゲーム以外。回答の多かった順)
横山光輝『三国志』(マンガ) 『一騎当千』(アニメ) 『三国志』(テレビドラマ) 『レッドクリフ』(映画) 『恋姫†無双』(アニメ)
『まじかる無双天使 突き刺せ!!呂布子ちゃん』(マンガ) 『蒼天航路』(マンガ) 『鋼鉄三国志』(アニメ) 羅貫中『三国志演義』(翻訳)
北方謙三『三国志』(小説) 『BB戦士三国伝』(マンガ) 『ブレイド三国志』(マンガ) 『天地を喰らう』(マンガ) 「三国志」に関係する書籍

横山『三国志』と『一騎当千』が10名くらい、テレビドラマの『三国志』と『レッドクリフ』が6名、『恋姫†無双』が5名、『呂布子ちゃん』が3名、あとは全部1名です。これらの中には二次創作とはよべない三次創作・四次創作とでもよんだ方がいいものもあります。ある程度モチーフは踏襲しているものの、「三国志」とは全く違うものになっています。

5. 曹操のイメージ
頭がいい 10 悪/悪役 8 強い 7 カリスマ 6 ロリコン 5
才能に溢れている 3 覇者 3 ドS 3 自分に自信がある 2 狡猾 2
きれい系でかっこいい 2 織田信長的なイメージ 2 冷たい 2 など

これらのイメージは、ゲームやマンガでのキャラクター設定、描写のされ方、ビジュアル要素(顔・体型・衣装・武器など)、ストーリーの中での役割や台詞(声を含む)などの影響を受けたものです。例えば、「強い」というイメージは、ゲームでの初期値が高いことに基づき、「ロリコン」というのは、ゲーム中で大喬・小喬(それぞれ孫策・周瑜の妻となった美人姉妹)に執着するシーンがよく描かれることに基づいています。また、「夢を追う男」と答えた学生もいましたが、その理由は、小説を読んだ限りでは悪役のイメージだったが、ゲームをやると曹操軍の話もあり、悪ではないと思った、というものです。せっかく小説を読んでいるのに、ゲームのイメージに左右されてしまっています。

6. 「三国志」を題材としたゲームでプレイしたことがあるもの
『真・三國無双』シリーズ 48 『三國志』シリーズ 9 『三国志大戦』 7 『恋姫†無双〜ドキッ☆乙女だらけの三国志演義〜』 2
『一騎当千』 1 『天地を喰らう』 1 『三国志とお話し』 1 『英雄三国志LOVERS』 1 『ラストコンカー 英雄の系譜』 1

ほんとにいろんなゲームがあることが分かります。『真・三國無双』は回答者が小中学校の頃に流行っていたものです。

「三国志」を題材としたゲーム

1983年に『信長の野望』という歴史シミュレーションゲームを出した光栄(現コーエーテクモゲームス)のシブサワ・コウ社長は、横山光輝『三国志』が大好きでした。そこで1985年に歴史シミュレーションゲーム『三國志』を出します。今から見ると稚拙な感じがするゲームですが、当時としては画期的なものだったそうです。これはシリーズ化し、2006年に『三國志11』が出ています。

1998年にはその外伝シリーズの第3弾として、『三國志曹操伝』が出ました。これは魔王に取り憑かれた諸葛亮を倒すために曹操が立ち上がるという設定で、本来の「三国志」とは全く違う物語になっています。ただし、曹操が取り上げられていることから、人気のあるキャラクターであることが分かります。

2000年8月にはアクションゲームの『真・三國無双』が発売されました。『三国志』『三国志演義』をモチーフとしつつも、独自の設定で多くのシリーズを生み出しました。リアルタイムシミュレーションとアクションの融合をコンセプトに作成され、「無双系アクション」ゲーム(『戦国無双』『ガンダム無双』『北斗無双』など)の嚆矢とされます。『真・三國無双2』は国内で100万本の販売数を記録しました。ゲームの中にはムービーがあり、今の若い人たちはこれを見て三国時代の史実を知ったつもりになっています。

「三国志」を題材にしたネットゲームの事例

2009年に『ブラウザ三国志』という無料のインターネットブラウザゲームのサービスが開始されました。これはSNSのmixiの中でのゲームで、mixiをやっている人の中にはこのゲームをやっている人が多いです。他のプレーヤーと同盟を組み、戦争をして砦を落とす戦争ゲームです。

なぜ「三国志」を題材にしたのかという点について、開発者は、モチーフとして武将が魅力的であり、「三国志」を題材にするとドラマチックで面白い戦争ゲームになるという意味のことを語っています。ゲーム中では武将カードを使うのですが、バーチャルな世界であるにもかかわらず、レアなカードを手に入れるために100万円以上つぎ込む人もいます。

基本的には同盟を組んでいる人とチャットをしながらゲームを進めていくのですが、チャットをしていく中でお互いのリアルな部分が見えてきます。意気投合すれば、バーチャルな世界なのに、強い団結力やリアルな人間関係といったものが生まれます。

私の同盟には20〜50代くらいのメンバーがいて、チャットの中で「三国志」の話題も出てきます。ゲームや小説で「三国志」を知った人、中国で「三国志」関係の史跡めぐりをした人などがいる一方で、魏・呉・蜀なんて知らない人や、武将の名前の漢字が読めない外国人もいます。「三国志」に関する知識やバックボーン、のめり込み方は千差万別です。

ウェブ上でやりとりしている人と実際に会って、生活の中にどのようにネットゲームが入り込んでいるかを調査することは、ウェブエスノグラフィーという研究になります。今後、このウェブエスノグラフィーを進めていきたいと思います。

「三国志」に関連したメディアミックスの事例

メディアミックスは、最近の日本のメディア文化状況の潮流で、一つのメディアで作品が出た後、マンガやアニメ、映画、テレビドラマに作品が流用されていくことです。メディアミックスは1990年代半ば以降に登場しました。

例えば、北方謙三さんの『三国志』(1996〜98年)は歴史小説ですが、1999年にTBSラジオでラジオドラマ化(全253話)され、そのラジオドラマをもとにして2001年にサウンドノベル形式のアドベンチャーゲームとしてゲーム化されました。

また、『一騎当千』はマンガ・アニメ・ゲーム・パチンコなどで展開しています。『恋姫†無双』はゲーム・アニメ・マンガ・小説・カードゲームなどで展開しています。さらに、コミックマーケットになると、これらをもとにした三次創作・四次創作といったものが溢れ返ります。これらは「三国志」の原形をとどめていないともいえますが、今の若い人たちはこれらが「三国志」を題材にしたものであると認知しています。

このほか、SDガンダムシリーズに『BB戦士 三国伝』というのがあります。SDガンダムとは、1985年に始まるガンダムを2頭身にしたシリーズで、プラモデル・アニメ・映画・マンガで展開しています。『BB戦士 三国伝』はSDガンダム20周年記念として登場しました。これは日本のガンダム文化と日本の「三国志」文化の合体です。まさに両方のおいしいとこ取りといえます。『BB戦士 三国伝』もプラモデルのほかに、マンガとアニメで展開しています。

日本のメディアに見る「三国志」と“「三国志」なるもの”の浸透と磁場の形成

そろそろまとめに入っていきたいと思いますが、日本人はそれぞれの時代ごとの「三国志」作品に接して「三国志」を知ってきました。平成生まれにとって、それは圧倒的にゲームです。これにはゲームの普及と浸透、メディアミックスの成熟が背景にあります。特に後者については、いろんなメディアがコラボレーションして一つの包囲網を作ることで作品を消費者に提示しているということがいえます。

また、「三国志」には二次創作・三次創作を創出しうる魅力があります。デフォルメのされ方として、その時代ごとに流行した、若者たちが興味を向けている作品と「三国志」とを合体させ、その関係性によって、二次創作・三次創作が構成されています。SDガンダムがその例です。

さらに、「三国志」はコミュニケーションツールにもなっています。いろいろな世代や性別を超えて共有されるポピュラリティが「三国志」にはあります。

現在の若者が「三国志」や“「三国志」なるもの”に触れたり、興味を抱く現象は、1980年代半ば以降、ゲームが大きな役割を担ってきました。ただし、そのゲーム空間における「三国志」とは、日本というローカルな文脈の中で発展したもので、特に1990年代半ば以降には、史実や小説から離れたきわめてドメスティック(独自、自分勝手)な解釈と表現を含んだものとして提示されてきました。

今の若い人たちにとっての身近な「三国志」や“「三国志」なるもの”とは、「親密さ」「入手しやすさ」「分かりやすさ」の点において、すでに日常に溢れ、流布している二次創作・三次創作とよべるゲーム・マンガ・アニメによるものです。そうした二次創作・三次創作を通じて蓄積され、埋め込まれたイメージや言説が、ひいては曹操をはじめとする武将のイメージに大きく関与しているのです。これが同時進行で今の日本に見られる文化現象なのです。

第 III 部に参加した方の感想

  • ・最近の三国志ゲームの状況がわかっておもしろかった。
  • ・女性ならではの見解やゲームから見た三国志の話は新鮮だと感じました。
  • ・鈴木さんや渡邉先生の講演とは全く異なって、ゲームという観点から三国志を分析されていて、とても新鮮で、一番とっつきやすかったです。三国志がいかに日本人に親しまれている物語なのかがよく分りました。
  • ・正史から離れた三国志も何でもありでおもしろそうだと思いました。沢山のゲーム紹介ありがとうございました。興味を持ったので、やってみます。
  • ・私が知らない三国志について色々と知ることができました。ゲームを通じたコミュニケーション、一緒に戦った仲間というのは、かけがえのない友人ともなりえることが想像できます。
  • ・創作の三国志であれば、いつ何時でも知ることができて、親しみやすいのだと思いました。
  • ・他の大学生のイメージ(ロリコン、顔が怖い…)は少し驚きましたが…。様々なメディアに進出している三国志、改めてその魅力の大きさ・強さを感じました。日本だけの現象でしょうか(性転換etc…)。興味深いですね。
  • ・日本で蓄積された三国志の印象は大体ゲームからきているのを知っておどろきました。元の歴史を知っていると、もっと楽しめるのではないかと思いました。
  • ・改めて三国志のキャラクターがあらゆるものの素材に使われやすいことがわかりました。今後どう発展するか見えるような気がします。
  • ・三次創作という指摘に、今の三国志ブームの本質があると思いました。
  • ・宗教的なものがからまないのも日本人的に受け入れやすいのかもしれませんが、コンテンツとしての三国志独特の魅力というのを改めて感じました。
  • ・私が三国志に出会ったのは『真・三国無双』があったからですし、大変楽しく遊ばせて頂きましたが、よもや現在の三国志作品があんなにも多様化(迷走)しているとは思ってもみませんでした。ただ、ああいった作品に育まれた日本の三国志文化の中から素晴らしい研究者が現れる可能性もあるわけで、日本のオタクはあなどれないと思います。といいますか、日本人の持つオタク性なるものが、日本における三国志流行の原動力と思えてなりません。
  • ・メディア的視点はこれから必要になると考えさせられました。
  • ・古典や大作をゲームを通じて知る弊害はそれらの本質を理解しない、或いは誤解したまま過ぎてしまう恐れがあること。一世代昔は映画がその役割をした。ゲームをきっかけに原文を読むことになれば、またその意義が高まるでしょうが、活字離れでその機会は少ない。
  • ・中国文学科のものなんですが、振り返ってみると、『三国無双』→三国志好き→小説→中国文学→中国文学好き→漢文好き→中国文学科(now)といった感じだった気がします。入口がなにであろうと、今がこれなら文句無いだろ!! と、何も知らずにゲームを否定する人に言いたいです。
  • ・きっかけは漫画であれ、ゲームであれ、三国志を知るいい機会だと感じました。「三国志が好き」という点において垣根はあまりないように思います。
  • ・要旨をレジュメとして配布して欲しかった。
  • ・爆笑の渦に巻き込む見事な講演でしたが、お年寄りには聞き取りづらい速さのご説明だったと思います。ようしゃべる先生ですね。ぶっちゃけ関西人でしょ〜!
  • ・前提として、ゲーム等の非現実的世界と接している人でないと少々わかりにくかったかな、と。私は楽しめました。