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第5回 担当教員 稲田 篤信  専門 近世日本文学

国文学講義④A・B(近世日本文学)

講義内容

 今回ご紹介するのは、2年次生を対象とした選択必修科目「国文学講義④A・B」の授業です。ここ5年間、連続して日本文学屈指の名作である上田秋成作『雨月物語』(1776)をテキストに選んで講義を行っています。テキストには、『雨月物語精読』(稲田篤信編、2009年、勉誠出版刊)を用いています。

『雨月物語』は死をかけて再会の約束を果たす友情の物語「菊花の約」、三井寺の僧が魚に変身する「夢応の鯉魚」など、全9篇から成る怪談小説集です。授業ではこの中からいくつかの作品を選んで、講義の形式で、語法に注意しながら、丁寧に鑑賞し、近世小説のおもしろさ、楽しさを味わうことを目的にしています。訳読と読解、分析の力をつけ、より深く表現の仕組みや作品の主題について理解を深めるところまで力をつけてもらいたいとも思っています。

講義からの豆知識

 『雨月物語』は「諸国物語」の形式で綴られた「今古怪談」です。すなわち全国各地の、今と昔の不思議な話、というわけです。秋成の生まれた大坂(大阪)周辺では、白峰神社(香川)、琵琶湖(志賀)、吉備津神社(岡山)、長谷寺(奈良)、道成寺(和歌山)などの名所が出てきます。東日本では真間(千葉)、富田(栃木)、会津(福島)が舞台に選ばれています。溝口健二監督の映画にも取り上げられた「浅茅が宿」は、『万葉集』の真間の手児奈で有名な真間の里の農民夫婦の話です(ただし、映画では琵琶湖周辺)。
 これらの舞台は、作品中に巧みに紹介され、読み進むに従って、その土地の歴史、名所、風景を知ることになります。僧が魚に変身して、琵琶湖を泳ぎ回る場面では、主人公とともに湖を時計回りにグルリと一周し、途中、瀬田の唐橋など近江八景といわれる名所を道行文で味わう工夫がされています。琵琶湖周遊案内というわけです。読者はまだ見たこともない遠く、近くの土地の空想の旅をしながら、恐怖のサスペンスを楽しむという仕掛けです。

私の授業へのこだわり

稲田篤信

 授業では音読の大切さを伝えたいと思っています。受講生の人数の関係で、時間を取って一人一人に音読してもらうことは出来ませんが、朗読を一語一語逃さず正確に聞き取り、自分で声に出して読んでいく習慣を身につけてもらいたいと思っています。
 『雨月物語』の文章は文章史の大きな流れの中で見ると、近代語の散文です。登場人物の欲求や思想は、われわれの心や頭の中で起こっていることとそう変わりません。一方で、『雨月物語』は200年以上前の古典文学ですから、文章は皆さんにとっていくぶん外国語です。そこに近づくには、目で追うだけなく、声に出して、手で写して、身体になじませていくことが大事です。古典の文章の周波数に同期する(シンクロナイズ)するのです。

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