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第3回 『定家撰錦葉抄』ほか 百人一首の本いろいろ 山崎正伸(本学教授)個人蔵

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正月が近づくと、何故か百人一首が恋しくなります。特に、競技のためとか、遊びのためとかではありません。懐かしくなって、見たくなるのです。かといって、札を並べるのも億劫で、そうなると極力板本や、折り本に貼った物になります。どこぞの番組のお宝鑑定団のような、高価な代物ではありませんが、しんしんと冷えて、ピューと虎落笛(もがりぶえ)の音がするようなの夜、一人静かにめくる楽しみ、そんな私のささやかな宝物を一つ二つ。

綺麗なのは、『定家撰錦葉抄全』縦24㎝横18㎝高さ5.2㎝。奥付によると、天保6年(1835)乙未春正月発行 画工石田玉山 浪華書林 心斎橋通 中嶋宝玉堂 河内屋徳兵衛版 とあるものです。しかし、後に摺られたものでしょう。表紙は、表に桜が描かれた布表紙に、赤い布の題簽に「定家撰錦葉抄 全」と刷ってあります。裏表紙は、紅葉と松葉。木版多色摺の一册。後に「今川」と「女大学」を付しています。今川は頭注部分に七夕和歌を付し、女大学には、婚儀進行を付してあります。裝束を楽しみ歌を楽しむ一册です。しかし、人物の姿で一番好きなのは、冷泉為恭の『聯珠百人一首』です。縦30.5㎝横22㎝高さ2㎝。奥付によりますと、明治28年(1895)7月20日発行 編纂者片野東四郎 とあります。細い線ですが精確なラインを引く、そして全体として優しい雅を表現しています。塗るでもなく、そこそこに差された薄い色が、なんとも言えない気品と色香を釀し出しています。天智天皇も、持統天皇も、時代衣装に忠実です。後鳥羽院の屏風の虎も、庚寅歳の平成22年にぴったりかもしれません。この『聯珠百人一首』を見る時は、つい気になるのが『小倉百人一首画稿』です。これは、縦28.5㎝横20.5㎝高さ1.2㎝。奥付によると、大正14年(1925)2月発行 米山堂とあります。これを、合わせながら見ると、為恭の苦労や、線の美しさ、そして、版木を彫る彫師の技量が感じられます。そして、変わり物の百人一首に『新撰百人一首』があります。明治時代には教育修身上好ましくないという理由で、19首は歌人を代え、29首は歌が替えられています。しかし、やはり恋歌の方が良いですね。そして、ちょっとした時の楽しみは、江戸期の版画の百人一首を折り本仕立てにした物。縦12㎝横9㎝高さ8.5㎝、札の大きさは、縦7㎝横4.5㎝。枕元において、ぱらぱらとめくる楽しさは格別です。世に言うお宝ではありませんが、私のささやかな楽しみに合った宝物なのです。(山崎 正伸)

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