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第8回 中国語を自己表現のツールに 文学部中国文学科 張佩茹

 高校受験が終わった夏に、叔父一家とともにタイとマレーシアを旅行しました。その旅先でオーストラリア人のかわいい少女にめぐり合いました。彼女と友達になりたくて、英語で声をかけてみました。私の英語を彼女は少し理解してくれたようでしたが、中学3年間英語が得意科目だった自分の英語のレベルはこの程度のものしかないのか、と悔しさを覚えました。この体験から、もう二度と受験のために勉強したくないと心に誓い、旅行から台湾へ戻った後、合格となった高校には進学せず、より実用的な勉強ができる高等専門学校に進学することを決意しました。高専では英語と日本語を中心に学び、卒業後は大学の英文学科に編入しました。その後、大学卒業を目前にした時点で、それまで外国語学習に専念していた自分なら、外国人向けの中国語教育に何らかの貢献ができるかもしれないと感じ、当時台湾では新しい学問分野として認知されはじめた外国語としての中国語教育を専攻できる大学院に進学することにしました。こうして今日まで現代中国語を対象とした文法研究と外国人向けの中国語教育に携わっています。外国語であろうと、母国語の中国語であろうと、気が付けば、かれこれ二十数年間言葉と関わってきていますが、原点を辿ってみると、一人の少女に自分の気持ちを伝えたい、ということが私が言葉に興味を持つようになった最初のきっかけでした。

 言葉はコミュニケーションのツールである、ということは誰しも認める事実でしょう。しかし、ずっと教室で外国語を勉強していると、いつの間にか、コミュニケーションのことをそっちのけに、教科書の内容を暗記して筆記テストでいい点数を取ればそれでよい、ということになりがちです。このように外国語学習の本来の目的を見失っているのはすべて学習者の責任だ、というわけでもありません。なぜなら、外国語のコミュニケーション能力を身に付けるためには、学習者の積極的な学びの姿勢はむろん重要ではありますが、そのほかに適切な教材選びや、目的に合致した授業の進み方と成績評価方法も不可欠だからです。たとえば、読み書きの練習を中心に進められる授業を受けている学生なら、聞く・話す能力が限られてしまうのも仕方のないことでしょう。幸い、外国語教育の分野では近年、実践的なコミュニケーション能力を重視する授業が主流になりつつあるため、外国語は単なる知識ではなく、一種のスキルとしても教えられるようになっています。

 大学における中国語教育も例外ではありません。4技能(聞くこと、話すこと、読むこと及び書くこと)をバランスよく習得させることが授業の達成目標になっています。中国語の授業で教えられているのはいわゆる「普通話」という共通語です。辞書で引くと、「普通話」は北京語の発音を標準の発音とし、北方方言をベースに、さらに現代白話文のよい作品を文法の規範とする共通語のことを指す、と書いてあります。ここで注目すべきは「普通話」は特定の地域で話される言葉ではなく、やや人工的に作られた概念であることです。「普通話」を広く普及させるために、地域色の濃い話し言葉ではなく、書き言葉を規範にしているのです。この「普通話」を習得すれば中国の多くの地域では問題なく意思疎通ができるようになります。また、中国国内にとどまらず、マレーシア、シンガポール、インドネシアなど華人が数多く居住する国でも役に立つ場合があります。海外の華人コミュニティーでは広東語や福建語といった中国語の方言が母語である人が多いですが、学校教育では「普通話」を教えることが一般的なのです。このように、「普通話」は中国国内外で広く使われていますが、方言の影響などにより、地域によって微妙に発音や慣用的な語彙が異なることもあります。つまり、共通の言語として「普通話」が存在するものの、実際の用法にはバリエーションがある、ということです。

 中国語の教科書は、特に初級レベルでは「普通話」の基礎文法事項と基礎語彙を習得することを目標に編纂されたものであるため、いささか無味乾燥に感じられてしまうかもしれませんが、中国語の土台作りには避けて通ることができない重要な学習段階です。しっかり「基本形」を身につけたうえで、文学や歴史、演劇、音楽、映画、書道、アートなど自分自身が興味を感じるジャンルのものを通じて、実際にネイティブに使われている中国語、つまり様々な「変化形」にどっぷり浸かってください。言葉は確かにコミュニケーションのツールではありますが、日本で中国語を学習する場合、周りに中国語の母語話者がいなければ、日常生活で中国語を実際に使う機会が限られてしまいます。それでは、どうすれば中国語を学習する意欲をずっと高く保つことができるかというと、自分の趣味にひっかけることが一つの方策でしょう。つまり、好きなことを追求しているついでに中国語を学習することです。そうすることによって、コミュニケーションの相手がいなくても、中国語を自己表現のツールとして使えるのです。外国語の学習には近道がないと言われていますが、長く持続するコツがあります。それは、その言語を自己表現のツールに磨き上げることです。持続は力なり、根気よく続けていくうちに、おのずと語学力が付いてきます。

(文学部中国文学科 張佩茹)

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