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著書紹介

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がんサバイバー

  • 著者:フィッツヒュー・モラン
  • 訳者 : 改田明子(二松学舎大学文学部)
  • 出版社:ちとせプレス
     四六版、248頁、2,484円(税込)
  • ISBN-10:4908736049
  • ISBN-13:978-4908736049
  • 発売日:2017年6月1日

著書の内容

 本書は、今から40年以上も前に32歳の若さでがんを患い、過酷な闘病生活を送ったモラン医師の闘病記、“Vital Signs” の翻訳書です。本書を出発点として、モラン医師は、世界のがん治療を方向づけることになる「がんサバイバーシップ」の概念を提唱しました。がんを患う人は、病気によって変わってしまった世界を生きることになります。そこでは、「死に直面しつつ生きること」、「病気によって変わってしまった身体を生きること」、「再発の恐怖を抱えながら生きること」、「職業生活を身体に合わせて調整すること」などさまざまな困難に出会います。当時、それらの当事者の困難は、「生きているのだからいいではないか」と脇に置かれていました。モラン医師は、自身の体験を出発点として、がん患者の生活のサポートを強化するがんサバイバーシップ運動を展開していったのです。
 本書の魅力は、がんを患うことに伴う内面の体験が繊細な感性で鮮やかに描き出されているところにもあります。たとえば、辛い治療で苦しみ絶望しているさなか、著者は無実の罪でソ連の強制収容所に捉えられた若者の体験記に慰めを見出しています。強制収容所の若者が希望を失わないために用いた知恵は、予測不能な日々のなかで自分を見失わないための地道な積み重ねであり、派手な活劇とは無縁なものでした。
 がんを患った著者は、健康で世界に対する万能感で満たされた生活から、自分が信じていた世界が予測不能となり、路に迷って不確実性な世界を生きる生活に急転直下し、世界に翻弄されます。そして、その後には、その自分の辛い経験を人々と共有することを通じて、がんに関わる人々の役に立つことを知り、それに大きな喜びを見出してゆきます。本書は、がんの不確実な世界を歩む人々が手にとることのできる手作りの地図なのです。現代、二人に一人の人が、生涯にがんを経験すると言われています。本書は、がんの辛い経験を生き抜いた著者から私たちに贈られたエールとも言えましょう。モラン医師は、そのような辛い経験を経た人生を、人生の味わいがより鮮やかになる、「赤はより赤く」と結んでいます。
 私は、困難に直面した人が安易な慰めの言葉にどのように傷つき、どのような関わりに希望を見出すのかなど、本書の翻訳を通じてたくさんのことを学ぶことができました。皆さんも、40年前のアメリカ人医師の闘病生活を旅の友としながら、辛い病いを生き抜くことが教えてくれる人生の美しさに触れてみませんか。 (文学部国文学科 改田明子)

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