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著書紹介

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万葉語誌

  • 編著:多田一臣(二松学舎大学文学部)
  • 出版社:筑摩書房
  • 四六版、430頁、2,000円+税
  • ISBN:978-4480016041
  • 発売日:2014年8月7日発行

著書の内容

 語誌とは、ある一つの言葉の成り立ち、語義や用法の変遷、さらにはその言葉の背景にある世界像などを綜合的に記述したものをいいます。言葉は歴史性(時代性)を背負っていますが、その歴史性とは、その言葉を使っている人びとの世界像そのものであるということもできます。
 いまの私たちは、私たちを中心に置き、私たちを取り巻く外界(=自然)を私たちに従属するものとして捉えようとします。私たちが主体で、外界は客体に過ぎないということになるのかもしれません。ところが、古代においてはまったく様相が違います。外界こそが絶対的な主体でした。人びとはそれに対して受動的に接していたのです。山や野に入って、木を伐ったり草刈りをしたりする際などには、山や野の神の許しを得ることが必須とされていました。人びとの生活空間は村里に限定され、それを取り巻く外界は神の領分と考えられていたのです。それゆえ、勝手にそこに足を踏み入れることはできませんでした。
 外界に対して受動的に接していくような意識、――そうした意識が、古代の人びとの世界像の根幹にありました。一つだけ例をあげます。夜や昼、あるいは季節は、私たちが住むこの世界に、外側の世界からやって来るものと考えられていました。朝は、山から野を越え、そして人びとの住む村里にやって来るのです。その訪れをいちはやく察知するのが鳥たちでした。ニワトリは、もともと「庭つ鳥」で、庭先で飼われている鳥の意味です。いまでもニワットリと呼んでいるお年寄りがいたりします。そのニワトリが、人より早く、朝の気配に気づいて鳴き声を立てるのです。春になって花が咲くのも同じです。どこからともなくやって来る春の気配を感じて、花は咲くのです。こうしたことも、古代の人たちの受動的な世界像とどこかで結びついているはずです。
 さて、『万葉語誌』は、万葉時代の人びとの世界像を解き明かしながら、『万葉集』を理解する際の鍵語となるような言葉150語を選び、それを語誌的に解説した本です。それぞれの関心に応じて、どこから読み進めていただいても構いません。いまの私たちとはあきらかに異なる古代の人びとの世界像のありようをここから知っていただければ幸いです。 (文学部国文学科 多田 一臣)

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