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著書紹介

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親鸞の信仰と呪術―病気治療と臨終行儀―

  • 著者:小山 聡子(二松学舎大学文学部)
  • 出版社:株式会社 吉川弘文館
  • A5版 304頁11,550円(税込)
  • ISBN: 978-4-642-02913-1
  • 発売日: 2013年8月20日発行

著書の内容

 のちに浄土真宗の開祖とされた親鸞は、他力の教えを説きました。他力の教えというのは、自力で極楽往生することは不可能であり、阿弥陀仏の力によってはじめて極楽浄土へ往生できるとする教えのことです。従来の親鸞の研究では、親鸞が一貫して他力の教えを説いていたことを前提として論じられてきた傾向にありました。そして、親鸞は、自力の行為である呪術を真っ向から否定した、とされてきました。しかし、これは正しいのでしょうか。答えは否です。

 親鸞が生きていた平安時代後期から鎌倉時代前期は、呪術への信仰が実に盛んな時代でした。貴族社会では、病気の治療や出産の時には、僧侶の祈祷や陰陽師の祭や祓に依存していました。呪術に依存していたのは貴族ばかりではありません。庶民も、呪術による祈雨や豊作祈願、病気治療などに日常的に頼っていました。親鸞は、呪術を完全否定できるような時代には生きていなかったのです。

 本書では、親鸞が呪術を常識とする時代に生きていたことに着目し、親鸞の師法然やその門弟、親鸞、親鸞の妻、子ども、子孫が呪術信仰とどのような関係にあったのかを、彼らの病気治療や臨終のあり方を中心に明確にしました。なぜならば、病気や臨終といった生命の危機がさし迫った時にこそ、表向きの信仰ではなく、内に秘めた信仰の神髄が露わになるからです。

 まず、平安時代から鎌倉時代における病気治療がどのように行なわれていたかを論じました。この時代に病気の原因としてもっとも恐れられていたのは、モノノケです。そこで、モノノケがどのようにして病気をもたらし、貴族たちはそれに対していかに対処していたのかを、仏教書や貴族の日記、説話などをもとに明らかにしました。また、当時の貴族がどのように臨終行儀を行なっていたのかも論じました。

 次に、親鸞の師法然、その弟子津戸三郎為守、證空、親鸞、親鸞の妻恵信尼、長男善鸞、末娘覚信尼、曾孫覚如、覚如の長男存覚の病気治療や臨終への姿勢を明確にしました。彼らは、程度の差はあるものの、呪術などの自力の信仰と無縁ではありませんでした。親鸞自身、呪術の効果を真っ向から否定してはおらず、思わず呪術による病気治療を行なってしまったこともあったほどです。

 従来の中世宗教史研究では、浄土宗や浄土真宗を鎌倉仏教の代表と位置づけ、それまでの仏教とは大きく異なることを強調してきました。しかし、法然や親鸞の信仰は、それまでの仏教の信仰とそれほどには異なりません。法然も親鸞も、もとは天台宗の僧であり、比叡山から下山したのちも、その影響を受けた信仰を持ち続けていたのです。これまでは、法然や親鸞の信仰の新しさや特殊性ばかりが強調されてきたきらいがありました。しかし、今後は、彼らの信仰の新しさや特殊性ばかりに着目するのではなく、それらを天台宗の信仰をはじめとする既存の信仰の延長線上に位置づけていく必要があります。

学生の皆さんへ

 親鸞は、現在、歴史上の僧侶としてもっとも著名なのではないでしょうか。しかし、そんな親鸞ではあっても、浄土真宗の開祖として崇められるからか、どうも現代人の願望を込めて理想化して論じられてきた傾向にあります。もちろん親鸞を信仰対象とするときには、そのような見方をすることにも意味があります。しかし、研究対象として親鸞を論じる場合には、しっかりと時代の中に位置付けていく必要があります。本書では、そのような作業をしました。
 高校の教科書に出てくる親鸞を知っている人には、目から鱗だと思ってもらえるようなことが本書の随所に出てくると思います。歴史や文化、宗教に興味がある人、呪術に興味がある人、モノノケに興味がある人は、ぜひ本書を読んでみてください。(文学部国文学科 小山 聡子)

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