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著書紹介

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漢魏六朝における『山海経』の受容とその展開
――神話の時空と文学・図像

  • 著者:松浦 史子(二松学舎大学文学部)
  • 出版社:株式会社 汲古書院
  • 341頁(図版:モノクロ10頁、カラー2頁)8,925円(税込)
  • ISBN-13: 978-4762929748
  • 発売日:2012年3月6日発行

著書の内容

 「天下第一の奇書」と称される『山海経』は、紀元前2世紀頃までに成った中国最古の神話的地理書です。その博物的な性格から、現在、文学のほか歴史・思想・民俗民族・自然科学など多分野で研究されていますが、この書物が漢魏六朝という激動の時代において如何に受容されたのかについての研究書はありませんでした。本著はこのような状況に対し、漢魏六朝における『山海経』の受容について検討した初の専著です。

六朝という時代は、四百年続いた漢帝国が崩壊し、西方から伝った仏教に刺激されて旧来の価値体系が大きく変化した時代でした。本書の主要部分である「文学編」は、このような激動の時代に活きた郭璞と江淹という、二人の六朝詩人の文学作品にみる『山海経』受容の検討を通じて、六朝人の構想した世界観・国家観を考察したものです(博士学位取得論文:2009年・東京大学)。

『山海経』が奇異な図像を伴っていたことは古くから知られていますが、現在、我々が眼にする『山海経』の図像は明代以降のもので、古いタイプの図像については良く知られていません。そこで本著では最後に「図像編」として、漢魏晋南北朝時代の画像石や瑞祥志(瑞祥の専門書)を手がかりに『山海経』の異物誌としての性格等について考え、従来知られることの無かった新しい瑞祥をいくつか紹介しました(フランス国立図書館所蔵・敦煌将来ペリオ文書p2683「瑞応図」の鳳凰の図像のカラー図版は、日本では初公開)。

学生の皆さんへ――常識の外にあるものへの挑戦

 『山海経』の奇怪な神話世界は、漢魏六朝時代にもその信憑性が疑われることがありましたが、この古書に初めて本格的な注釈を加えた六朝初めの博物学者・郭璞は、今の科学者に近い視点から『山海経』に掲載される奇異な動植物、域外の国やそこに住む人々について多くのコメントを残し、それらの実在を証明しようとしました。

 科学者と言えば、湯川秀樹氏の中間子論が『荘子』の思想に関連することについては有名ですが、その湯川博士の父が、近代的『山海経』研究の基礎を造った理学博士・小川琢治氏であることはあまり知られていません。湯川博士には『山海経』の奇異な神話世界が、若き湯川博士の想像世界に強いインパクトを与えた、という旨の随筆が残っています。『山海経』や郭璞注の精神が、湯川博士の宇宙論に与えた影響についてはさらに研究の余地はありますが、漢魏六朝時代と同じく多くの価値観がドラスティックに変化する21世紀、本著は、中国の文学や歴史・思想のジャンルを超えて、広く常識の外にあるものに挑もうとする人たちにも読んで貰いたく想っています。(二松学舎大学文学部 松浦 史子)

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