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著書紹介

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落語の黄金時代

  • 編者:山本進・稲田和浩・大友浩・中川桂/著
  • 出版社:三省堂、2010年6月15日発行
  • 変型B6版 216頁 1,500円+税

本書の内容

 この本は、昭和戦後の落語史の正確な整理をねらいとして、そのうち昭和三十・四十年代の江戸・東京落語の最盛期を中心にまとめられたものです。この時代、落語は毎日興行されるいわゆる「寄席」(落語定席)以外にも上演の場が広がっていました。そこで本書では、従来の寄席より質の高い会を指向していた単発の落語会「ホール落語」の発展・拡大にも着目し、「ホール落語と古典落語」として一章を割いています。

 またこの時代、テレビ放送の普及が芸能・娯楽に与えた影響は無視できません。そこでテレビを通じて落語および落語家がどう人々に浸透していったかについても触れています。テレビ以前に影響力のあったメディアといえばラジオですが、両者の特徴について「ラジオは落語(ネタ)を売るのに向き、テレビはキャラクター(演じ手=落語家)を売るのに向いている」(第2章)との指摘は的を射たものでしょう。

 ところでこの書のアピールポイントの一つは、江戸・東京落語と並行して同時期の上方落語にも目配りがされている点です。これまで同種の落語本は、東京落語の陰に隠れる形で、衰退期だった上方落語は忘れられがちでしたが、復興へ向けて形を整えていく上方落語の上昇過程についても一章を設け、それを私が執筆しています。

共著の執筆にあたって

 一人で著す単著と、複数で作り上げる共著とでは、その苦労や達成感も違います。この本はたんなる分担執筆でなく、本当の意味での共著とすべく、計画段階で少なからぬ勉強会・会議を行いました。そこで資料の共有や情報交換をはかり、それぞれの章を書くに適した書き手がまとめています。私自身はもともとなじみのある上方落語を担当しましたが、対象となるのは物心がつく前の時代です。主に用いたのは文献や新聞記事などの資料ですが、その時代を実際に体験した共著者のかたを始め、落語好きの先輩方から伺っていた話がいろいろと参考になりました。明確な裏付けがなく割愛したエピソードもありますが、例えば戦争や災害体験と違い、好きな分野の思い出について語る人々の楽しそうな顔はとても印象に残りました。

読者へのメッセージ

 趣味・娯楽にかかわる書籍、とくに芸能物がともすれば不正確な情報も含めて編まれる傾向も否めない中で、これは学究的姿勢に基づいた戦後落語史の概観です。その時代を知らない若い世代の方々にぜひ一読してもらいたいと同時に、そんな歴史的土台の上に存在しているこんにちの落語にも興味を持ってほしいと思います。 (文学部国文学科 中川桂)

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