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著書紹介

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雨月物語精読

  • 編者:稲田篤信
  • 出版社:勉誠出版、2009年4月1日発行
  • A5版 224頁 1,700円+税
  • ISBN978-4-585-0084-7 C1093

本書の内容と工夫

 怪談小説として知られる『雨月物語』は、繰り返し読んで飽きない。文章を細かく読むと、その度に新しい発見があって、奥行きが拡がって感じられる。そして全体が面白い。若い読者にとっては、今と将来を考えるきっかけを与えてくれる。『雨月物語』はそういう魅力に富んだ日本文学屈指の名作です。

『雨月物語精読』は大学の古典教科書として作りました。講読や演習のテキストとして、読みの流れが途切れないように、語句に注釈をつけて説明したのはもちろんですが、そのほかに一つ、他の教科書にはない工夫をしています。『雨月物語』九編の作品にそれぞれ読解の手助けのために、「話題」と「練習問題」を設定したことです。

「話題」とは、例えば、冒頭の一篇「白峰」には、「道行文・歌枕・寺社参詣・未来記・問答・位争い・禅譲と放伐・御霊・天狗・君と臣・父と子・兄と弟・届かない手紙(書物)」などの内容が書かれているというように、あらかじめこの作品に含まれるトピックスを掲げました。「練習問題」とは、同じ「白峰」の「冒頭の道行文には旅人が誰かすぐには分からないように書かれている。それはどのような効果をあげているか」がその一例です。いずれも高校教科書の課題学習とは一味違う内容にしてあります。「話題」も「練習問題」も、話題の内容を明確にしたり、問題に答える形で自分なりに解釈を短文にまとめ、作品の世界に入っていく入口、窓にしてもらいたいと考えて作りました。ここで、解釈を書く、というのがポイントです。レポートや卒業研究に発展させいく第一歩にしてもらいたいというのが、工夫の趣旨です。

精読の楽しさ

 古典を正確に読んで味わう。さらに書くことによって、テキストの細部を見つめ直す。そこに豊かな世界が拓ける。つたなくとも、感想から解釈、批評へと進む。それが精読の意味であり、本を読む楽しさです。

こういうふうに前もって読書の指標を与えるのは、自発的な読書を妨げるという批判があるかもしれませんが、それは違います。作品を読んで何をどう書いてよいかについて迷うのは、誰にとっても普通のことです。むしろ、読者が作品の解釈の視点や問題の設定、書き方のモデルにあらかじめ接していることの方がのぞましいく(ロバート・スコールズ)、そのことは自由な読解をさまたげることにはなりません。これまでの経験から、実に魅力的な作文が数多く帰ってきています。本学の授業でも、去年と今年、講読のテキストに使用しました。図書館や本屋で見かけたら、手に取って見て下さい。(文学部国文学科 稲田篤信)

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