髙澤浩一編 『近出殷周金文考釈』
二松学舎大学学術叢書一覧

中国社会科学院考古研究所が、1984年から1994年にかけて公刊した『殷周金文集成』は、宋代以来の伝世品から新発見のものまで、その全貌を収録したもので、その総数は12,113件である。

本書が扱う銘文の範囲は、その『殷周金文集成』公刊以後に所在が判明したものである。また、本書に収録した銘文のほとんどが、これまで日本語による釈読が十分に行われていないものである。これらを、出土の地域別に4つに別け、まず第一集では河南省、第二集では陝西省、四川省、山西省、内蒙古、第三集では北京市、遼寧省、山東省、安徽省、江蘇省、浙江省、湖北省、湖南省、広州市、第四集では出土地未詳のものを対象にした。

近年、青銅器は科学的な方法により発掘され、研究機関や博物館等に収蔵されたものがあるとともに、それらとは別に、中国の国内で新たに存在が判明したものや国外で見つかったものなどがある。それらの銘文は、多くの場合、出土の時期も土地も明記されぬままに突如として報告される。本書は、発掘品のみならず、出現事情の不明なものをも含めて、あらたに見つかった青銅器銘のすべてに考釈を加えるという作業の成果を公表しようとするものである。タイトルに「近出」と題した所以である。

近年出現した青銅器銘を読むことのねらいは、次の3点である。

本冊に収録した銘文は、研究資料あるいは史料としての価値という点を考慮して、銘文字数が20字以上のものに限定した。考釈にあたっては、過去の字義や語義の解釈を再検討し、精確な釈文を作る作業をとおして、考釈研究を一段と深めるように努めた。従来の釈読は、個別の銘文について論じられることが多かったのに対して、本研究では諸家の論点を比較検討するとともに、出土地及び同時出土銘文を考慮して銘文の解釈と史的位置づけの妥当性から解釈の精度を高めるように努めた。