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平成26年度 二松學舍大学入学式 式辞

「 常に誠実であれ 」

 本日、二松學舍大学並びに大学院に入学された新入生のみなさん、誠におめでとうございます。また、本式典にご出席をいただきました保護者、ご関係の皆様に対して、心からお祝い申し上げます。
 本日のこの晴れの式典には、多数のご来賓のご臨席を賜りました。お忙しい中、ご臨席を賜りました皆様に厚くお礼を申し上げます。
 新入生の皆さんは、二松學舍大学の学風と伝統について、入学案内やホームページなどにより研究され、ある程度は理解していることと思いますが、ここで二松學舍大学の歴史を簡単に述べ、皆さんが学ぶべき大学の性格を認識する材料を提供したいと思います。
 二松學舍大学は1877年(明治10年)10月10日、学祖三島中洲先生が本学の現在の地に「漢学塾二松學舍」を創立されたことに始まります。
 明治初年には、国学、漢学、洋学の三学の優劣論が盛んに闘わされました。実学としての洋学が最も敬重され、江戸時代には学問の主流を占めていた漢学は旧弊の遺物とみなされました。
 しかし、明治10年代になると、外来の文物制度、学術思想にわたる言葉の多くが、漢語を借りて表現されたため、漢文の学習は洋学を学ぶ者にとって必須の学であると考えられるようになり、大勢の好学の若者が二松學舍の門を叩きました。その勢いは、当時、二松學舍は、福沢諭吉の「慶応義塾」、『西国立志編』の訳者として知られる中村敬宇の「同人社」と共に都下の三大塾の一つに数えられるほどであったことでもわかります。
 ところが明治後半期に入ると、漢語・漢文の素養に対する評価は急激に低下し、当時多数あった漢学塾は衰退していきました。しかし、中洲先生は、当時滔々たる西欧化の風潮におされて、東洋の学が滅びんとする危機的な世情を憂い、東洋の学を維持発展させるという強い意志をもって「漢学塾二松學舍」を続けられたのです。その間、二松學舍で学んだ中には、夏目漱石、犬養毅、嘉納治五郎、中江兆民、平塚雷鳥など、卒業後に各分野で活躍した多数の人物の名が見えます。
 その後、1928年(昭和3年)には二松學舍専門学校が設立され、多くの優秀な人材を教育界などに輩出し、国文漢文の二松學舍、国漢の二松學舍としてその信用と名声を得、創立以来137年の間、二松學舍大学は松の緑のその如く独特の学風と伝統を維持して、今日に到っています。
 二松學舍大学は基礎的学問を学ぶ大学であり、多数の優秀な教授陣を擁しています。学問のことについて分からないことがある時には、講義やゼミナール、オフィスアワーを通じて先生に積極的に質問、相談してください。学習や学生生活、将来の進路などについては、教務課、学生支援課、あるいは教職支援センター、キャリアセンター、学生相談室などで、気軽に相談してください。
 しかしながら、皆さんが頼るべきものは結局、自分自身です。ただ教えられることを待つだけでなく、皆さんが積極的に知識を吸収し、判断し、自らの能力を伸ばしていくために自己の最善を尽くすことが一番大事です。そしてそのような態度が皆さんの人格、人間性を形成し磨き高めるのです。
 大学または大学院へのこの度の入学は皆さんにとって大きな感激に違いないと思いますが、皆さんは、今日に至るまでの長い間、ご家族の方々が陰になり陽になって皆さんに注いだ愛情、皆さんのために払った犠牲がどんなに大きかったかということを忘れてはなりません。そして今後の在籍期間においても、ご家族の方々にこれまで以上に大きな負担をかけることになるであろうことも知っておくべきです。皆さんはご家族の方々に対する感謝の心を常にもち、心配をかけることのないよう心掛けて欲しいと思います。
 今は、皆さんの精神が一生の中で最もはつらつとして純粋な時です。だからこそ、私はこれから始まる二松學舍大学での学生生活において、皆さんに心掛けてもらいたいことを二つ申し述べたいと思います。
 第一は、最も身近な為すべきことを為すということです。
 皆さんは、二松學舍大学での学生生活を通じて、社会に出てからの進路を決めていくことになりますが、卒業後の遠い将来のことを、いろいろ今から思い悩む必要はありません。それよりも、まずは「よい学生生活」を送ることを考えてください。よい学生生活とは,「落ち着いて、見るもの、聞くものに誠実に接し、そして最も身近な為すべきことを誠実に実行すること」を基本とする生活です。
 最も身近な為すべきこととは、ただ大学の教室での講義やゼミナールでの勉強に限りません。文学、思想、哲学、歴史学、あるいは政治学、経済学、法学など、様々な分野における、精神の歴史を形成して来たような偉大な人々の書物、すなわち、古典とよばれる書物を読むこと。部活動やサークル活動やインターンシップなどの授業外活動に積極的に参加すること。また家庭においては家族を助けること、地域においてはボランティア活動に進んで参加すること。そのほかにも、皆さんの若き学生時代の日々、その時、その日に為すべきことはいくらでもあるはずです。
 大事なことは、自分の持ち場、自分の活動範囲において最善を尽くすということ、すなわち、あくまでも誠実であるということです。毎日の誠実な努力の積み上げは、皆さんの人間性を形成し磨き高めます。また、将来何になろうか、何をしようか、というキャリアビジョンは、そうした努力の延長線上にきっと見えてくるはずです。
ですから私は、皆さんが最も身近な為すべきことを為し、よい学生生活を送って欲しいと思います。
 第二は、常に誠実であるということです。
 私はこれまで誠実という言葉を何度か使いましたが、皆さんの学生生活全体が立派な意味を持つか否かは、今日から始まる学生生活において、皆さんが誠実であるか否かにかかっています。
三島中洲先生は、座右の銘として、「俯仰天人に愧じず」という言葉を大切されたといいます。「俯仰天人に愧じず」というのは、仰いで天に恥じず、腑して他人に愧じず、そして自分自身に対しても、決して愧じ入るような行為も心情もなく、常に心は公明正大であるということです。
 私がここで言う誠実であることとは、中洲先生の「腑仰天人に愧じ」ないということです。
 例えば、ネット上にある文章をコピーし、ペーストして授業での発表レジュメや課題レポートを作成したり、一夜漬けの勉強で試験に臨むというようなことは、とても誠実な方法とは言えません。時間に遅れて教室に入り講義の邪魔をしたり、禁煙の場所で人の迷惑を顧みずタバコを吸い、さらには吸殻のポイ捨てをするという行為は学生として愧ずべき行為と言わなければなりません。
 これらの行為を皆さんは些細な事柄であると思うかもしれませんが、二松學舍大学の学生としては慎むべきことです。そのような不誠実な態度で、勉強や研究をしても、真の成果は上げられません。
 最近社会問題化しているフェイスブックやツイッター、ラインなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の不適切な使用は不誠実の極みです。教育機関としての大学の発展にとって、規律と自制心は重要な要因です。そのため、これを揺るがす行為に対して、二松學舍大学は毅然として対応します。
 皆さんが中洲先生の座右の銘である「腑仰天人に愧じず」という言葉を心に刻んで、常に誠実に責任をもって行動することを、私は希望します。
 二松學舍大学は建学の精神として、「己ヲ修メ人ヲ治メ一世ニ有用ナル人物ヲ養成スルニ在リ」と「東洋の精神による人格の陶冶」を掲げています。
 これは平易な言葉に置き換えると、以下のような内容になります。
「学問の教育研究は、社会のため、人類のためにするものであるが、そのためには他人の立場をよく考えた教育研究をしなければならず、またそのためには自分の人間性を磨き高めるという「人格の陶冶」、「己ヲ修メ」るということが大事である。
 二松學舍大学は、学問の上に立って、学問を通じて、人間らしい人間に成長することを学生の使命とするとともに、学生がその使命を遂行する上でためになる教育研究を教授することを第一義とする。」
 以上が二松學舍大学の建学の精神です。皆さんは、二松學舍大学の建学の精神をよく理解し、青春時代の貴重な時間を空費せず、できる限りの学問を身に付け、人格を磨き高め、他人の身になって物事を考えることのできる真の大人に成長するための努力をすることを期待します。
 学校法人二松學舍には、教職員の心構えを示した「二松學舍憲章」があります。その中では、教職員と学生との人格的触れ合いを大切にすることが謡われています。
 私が常にもっていたいと思うものは、誠実だけです。二松學舍大学の教職員は、学生の皆さんに対して、あらんかぎりの誠実な態度で接します。学生の皆さんもまた誠実な態度をもって私たちに接してください。それによって二松學舍大学はいま以上に清清しい校風の溢れる大学になると思います。
 新入生の皆さん! 1870年代に現代の経済理論の基礎を築いたフランスの経済学者のレオン・ワルラスが経済学の研究を志した時に、彼の父親が彼を励ますために贈った言葉を、私はこの式辞の結びとします。
 静かに行く者は健やかに行く
 健やかに行く者は遠くまで行く

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